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防具に仕込んだパック詰の増血薬を取り出し、飲み干す。
アレだな。丸薬タイプをマスクに入れといた方が、すぐ使えて便利かも知れん。
そんな思量はさておき、血の回復と併せて魔石を樹鉄刀の柄頭に押し付け、剣身を再形成。
三度、剣と成った得物を掌上で弄び、攻勢に出た。
「ハハッハァ!」
緩急織り交ぜた足運び、フェイクの殺気。
他にも幾つか仕込みを加え、首尾良くミノタウロスの懐へと押し入り、一刀を見舞う。
「――おォ?」
が。柄を通した手応えは、痛みすら伴う埒外な硬さ。
どういうことだ。さっきより強度が増してる。
…………。
いや、違う。
これは。
「ズラしやがったな、てめぇ」
斬撃の瞬間、体軸を少しだけ逸らされ、刃筋が合わなくなり、表皮で弾かれた。
己が頑健を利用した、極めてロスの少ない最低限の回避。
粋な野郎だ。見た目に似合わず器用な真似を。
「ッと」
打ち終わりを狙った、雷鳴が如きカウンター。
紙一重で躱すも、風圧で身体を持って行かれそうになる。
――そんな天災じみた暴力が、更に立て続け、軽く
「オイオイオイ死ぬわ俺」
半分近くは、どうにか避けた。
しかし数を重ねる都度、上乗せされる威力と速度が、やがて俺から回避の選択肢を奪い、以降は受けで対応する羽目に。
「っぐ、ぐ……あァ重ってぇなァ!」
嫌な音を立てて軋む樹鉄刀の悲鳴を無視し、痺れる手に喝を入れ、直撃すれば即死の兇刃を水際で捌く。
なんともはや。
重量挙げのオリンピック選手を十人集めてもピクリとさえ持ち上がらないだろう鎚斧。
にも拘らず、そいつを、まるで棒切れみたいに振り回す、いっそ笑えるくらいの怪力無双。
ひどく読み辛い。瞬きどころか、百分の一秒たりとも気が抜けない。
爪の切れっ端ほどにでも受け損ねれば、次の瞬間には人肉ミンチの出来上がり――
「あ。や、べ」
――考えた傍から、想像が現実になりそうだ。
ああ、痛恨のミス。
戦いに熱が入り過ぎて、腕が一本なの忘れてた。
既に無い左を、咄嗟に出そうとしてしまった。
〈オオオオォォォォッッ!!〉
肌を貫き、臓腑まで突き刺さんばかりの咆哮。
大上段。両手持ち。振り下ろし。
……まずいな。完全にやらかした。
このタイミング。幾ら『深度・弐』の『豪血』だろうと、避けも受けも無理だ。
さあ、どうする。
どう対処する。
駄目だな、思いつかん。
万策尽きたか。
「――――ああぁぁぁぁああぁぁっっ!!」
死ぬなら死ぬで、せめて相討ちに持ち込むべく動きかけた間際。
リゼの絶叫と、狂った笑い声にも似た風切り音が鳴り渡る。
これ以上は無いと言えよう、絶好の合いの手。
太刀筋ひとつに圧縮された『呪胎告知』、触れるもの遍くを滅ぼし尽くす無差別破壊の一大呪詛――『処除懐帯』が唸りを上げ、ミノタウロスへと袈裟懸けに喰らいかかった。
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