253
ちっぽけな、けれど思わぬ反撃に警戒を抱いたのか、ミノタウロスの動きが鈍る。
その儚い間隙を突く形で更に後ろへ跳んで距離を稼ぎつつ、赤い血が見る見る青く変色する肩口に
抜群の吸着力。スマートに傷を塞いでくれる。
補修剤に止血剤、他にも色々使える便利な代物。無理言って譲って貰ったのは正解だな。
……さーて。
「どうしたもんか」
応急手当こそ済ませたが、とても
養分が足りねぇし、第一そんな猶予を与えてもくれまいよ。
かと言って腕を拾い、
だいぶ遠くまで飛ばされた上、傷口がヤスリでもかけたみたいな惨状。
あれを戦闘中に接ぐとなると、震度七の震源地で針に糸を通すより難しい。
このまま続行するしか選択肢が無い。
が、元より万全だろうと敗色濃厚な力量差。片腕で挑むのは流石に荷が勝ち過ぎる。
「やることリストに可及的速やかな服薬、栄養補給を追加、と」
およそ四万キロカロリー。
ついでに
何せ『深度・弐』だ。馬鹿みたいに血を削る。
籠手ごと毟られた左腕の分も合わせて、パフォーマンスが維持出来るリミットは……四十秒前後か。
明らかに悪化した状況。時間稼ぎすら雲行き怪しくなってきた。
「参ったな」
数多の敗北、押し迫る死を掻き分け、光明を手繰り寄せる繊細な作業。
たった一手の差し損ねが、積み上げた諸々を容易く崩す。
尤も格上相手の戦いとは、往々そういうものだが。
「ホント参った。楽し過ぎて笑えてくるぜ」
ほぼ確実な死さえ度外視すれば、
が、俺は嫁入り前の身であるところのリゼを、ダンジョン内で何が起ころうと五体満足のまま生還させると決めている。
少なくともヒルダの安否が明らかとなるまで、迂闊な真似は出来ない。
「……ん?」
割と八方塞がりな思案の只中。何かが脇を奔り抜けた。
狂った笑い声にも似た風切り音を撒き散らす、一閃の斬撃。
〈オオオオォォォォォォォォッッ!!〉
その内の四つが、雄叫びと共に振り回された鎚斧によって弾かれる。
上手く掻い潜った最後の
刃を分けたため深手にこそ至らなかったものの、傷に傷を重ねたことで肉の鎧を穿ち、小さく血飛沫を飛び散らせる。
…………。
「随分お早い復帰だな」
「何それ。皮肉のつもり?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます