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ほぼ瞬きにも満たない、刹那の幕間劇だった。
俺達が動きを見せたことで反射的に襲い掛かろうとしたミノタウロス。
その暴威を阻止すべく立ち塞がり、応戦の構えを取ったヒルダ。
――払い除けられた。いとも容易く。
「マジか」
近頃は無強化状態でも拳銃の弾くらいなら目で追えるようになりつつある動体視力。
だと言うのに、この距離ですら辛うじてしか視えなかった。
ロクに気の入っていない、なおざりな一撃。
にも拘らず、六十階層フロアボス――『スカディ』と名付けた女巨人の剣戟をも上回っていた速度と威力。
「ッ、豪血――」
想定を遥かに飛び越えた身体能力。
さりとて呆ける暇など皆無。
返す刀で俺達へと向けられた攻め手。
たった半歩の踏み込みで以て埋まる、そこそこ開いていた彼我の間合い。
音より速く迫る、鎚斧とでも呼ぶべき超重武器。
「――『深度・弐』――」
ギリギリ間に合った『豪血』の深化と、樹鉄刀の抜剣。
間延びする時間感覚。しかしミノタウロスの動きだけ、殆ど変わらぬまま。
滅茶苦茶だ。音速の数倍に至るレールガンの弾さえ比較にもならん。
凍りそうなほど血が冷たくなる感覚と、一方で熱を増す心臓の鼓動。
「ハハッハァ!」
意図せず吊り上がる口角に釣られ、嘔吐感にも近しい勢いで腹を巡る歓喜。
リゼを後ろに突き飛ばし、打ち下ろされる斧鎚を逆風にて迎え撃つ。
――さて。こいつを捌いたら、どう戦うか。
脳味噌がエンドルフィンに浸かり、更に極限まで圧し固まる体感時間。
思考を掠めるのは、決して上向きとは言い難い現状。
リゼが戦えるようになるまで、どんなに甘く見積もっても、あと十秒は要る。
ヒルダに至っては戦闘続行が可能なのか、そもそも生きているのかどうかさえ不明瞭な有様。
業腹だが、このダンジョンボスを相手に二人纏めて守りながら俺だけで勝てるビジョンが、今のところ全く浮かばない。
故、必要なのは時間稼ぎ。
せめてリゼが復帰してくれれば、勝ちの目を見出せる。
ひとまず十秒。向こう十秒のフローチャートを組み立てる。
そこから先は、実際の状況を見て判断。
「世界一長い十秒になりそうだ――なぁぁぁぁッッ!!」
上から斧鎚が、下から樹鉄刀が、打ち合わさる。
超音速同士の衝突によって波紋する衝撃波。
鼓膜が貫かれないよう、声を張り上げることで緩和を図る。
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
押し返すのは……無理そうだ。
理由は単純な力負け。覚えている限り『深度・弐』状態の『豪血』では初めての経験。
が、絶望的な差じゃない。
少しの間なら、拮抗も適う。
このまま、左に逸ら――
「――し、まっ」
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