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天獄の果て、深淵の最奥、直径数百メートルの小さな
そこで俺達三人を待ち受けていたのは、成程、
〈オオォォォォ……〉
半人半獣、牛頭のヒトガタ。
けれど、嘗て軍艦島で相対した牛頸とは、まるきり異なる。
ドス黒い表皮の内に堅牢強固な筋骨を押し込めた、見ただけで肌身に伝わる桁外れのフィジカル。
体躯は目算三メートル弱。このエリアで遭遇したクリーチャーの中では一等に小柄だが、膂力もタフネスも巨人共とは比べ物にならない筈。
俺の胴より太い剛腕が握る、片面に斧を携えた大槌。
腕以上に強靭な脚は爪先が蹄で、踏み締める都度、石床に深く亀裂を奔らせていた。
まさしく、正しく、モンスターという存在の代名詞がひとつ――『ミノタウロス』。
「天の獄、その核心を形作るラビュリントスの底に坐すのが
己が領域へと踏み入った闖入者を認識し、濁った双眸を此方に向け遣るミノタウロス。
体温か、はたまた高密度のエネルギーか、ゆらりと陽炎を纏った出で立ち。
……ただ視線を合わせただけで、腑の底から血が滲みそうなプレッシャー。
裂けるほど強く唇を噛み、気付けとする。
「ハハハハハッ。俺の知ってるミノタウロスは、二十番台階層クラスの雑魚なんだがな」
敢えて軽い調子に言葉を並べるも、二人からの応答は無い。
ヒルダは既に臨戦態勢。武器こそ取っていないものの『
そして、リゼは。
「っ、はっ……あ、は、あぅ、はっ、はぁっ……!!」
手振れが伝わりカタカタと床を鳴らす大鎌の石突、不規則に引き攣った息遣い。
明らかな恐慌、過呼吸状態。
――魂の視認能力、呪詛の感知能力。
習得スキルが齎す副次効果による、単純な五感特化の俺とは違う意味での広い知覚。それ等を併せることでクリーチャーが発するエネルギーの多寡をも推し量る異才。
その極めて稀な能力が裏目に出た。未攻略、難度八ダンジョンのダンジョンボスという埒外なエネルギーの凝縮体を視た所為で、精神がショートしかけてる。
「ヒルダ。少し任せる」
「承った」
ふわ、と前に出るヒルダ。
そんな光景を視界の端で見とめた後、間髪容れずリゼを引き寄せ――唇を重ねた。
「んっ……んぐっ……」
過呼吸の対処は二酸化炭素の吸入量を増やすのが手っ取り早い。
口移しで何度か息を循環させる。本当は袋を使う方が良いのだけれど、時間が無い。
程無く、忙しなかったリズムが落ち着き始める。
頃合を見て少しだけ顔を離す。
澄んだ赤い瞳と、視線が合わさった。
善哉。持ち直せたみたいだ。
そうした仄かな安堵も、束の間。
〈――オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォッッ!!〉
爆ぜ轟く、階層全体を揺るがすような、鼓膜を千切らんばかりの嘶き。
直後。
「がっ……ッ!!」
凄まじい衝突音と共に、割れ砕けて散乱する無数の瓦礫。
紙切れの如く吹き飛んだヒルダが、鉄骨も拉げるだろう勢いで、壁へと叩き付けられた。
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