246
六十階層を越えた後も延々と永々と続く、重々しい佇まいの深淵迷宮エリア。
分かっちゃいたけどマジ飽きた。
只管に同じ風景とか、気分屋な俺には耐え難いものがある。
なのでヒルダの『ヘンゼルの月長石』に併せる形で『ウルドの愛人』を使い、ランダマイズに転移する階段の出現位置を差し替え、手早く下へ下へと向かう我等一行。
現在六十三階層。着々と最深部に近付いてる。
ホント便利なスキルだ。戦闘に於いて使う気は毛頭無いが。
リゼに危険が及んだ時くらいか。例外は。
それにしても。
「やっぱり、だな」
うなじを抉り抜かれ、息絶えた巨人型クリーチャーの遺した魔石とドロップ品を圧縮鞄に押し込みつつ、得物を見遣る。
「樹鉄刀がおかしい」
「は?」
小さく呟いた独り言を耳聡く聞き付けたリゼが、此方を振り返る。
「リゼちーイヤーは地獄耳」
「意味不明なこと言ってんじゃないわよ。おかしいって何?」
淡々と問う声音の端に混じった微かな震え。
六十階層フロアボスとの一戦以降、リゼは些か神経過敏だ。
まあ気持ちは理解できなくもないが、そう不安がるなよ。
普段は図太いくせ、変なとこで繊細ちゃん。
「ん、いや、大した問題じゃねえ。ただ」
二度三度、抜剣形態と休眠形態への移行を繰り返す。
その都度に伝わる手応えの、小さな差異。
「剣身を形成する度、微妙に重心がブレてる。コンマ五ミリくらい、な」
今まで、こんなことは無かった。
お仕着せの如く均一だった規格の歪み。
作り手――仕事への妥協を一切許さぬ果心の性格と腕前を鑑みれば、明らかな異常。
深層での酷使に耐え兼ね、遂に壊れ始めたか。
それとも、或いは。
「兆し、かね」
真実がどちらであるにせよ、そう遠からず答えは出るだろう。
鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだ。
「ツキヒコ、リゼ、どうしたんだい? 何か問題でも?」
「いんや、なーんも。先を急ごうぜ」
立ち止まったヒルダを促し、歩みを再開。
隣に位置取ったリゼが、胡乱げに俺を睨む。
「本当に大丈夫なんでしょうね」
疑り深い奴め。
心配無用。自分の腕を食わせた影響か、寧ろ扱いやすくなってるくらいだ。
第一、お前には俺を案じるよりも優先すべきことがあるだろうよ。
「そっちこそ、どうなんだ。
「……芳しくないわ。制御に手間取ってる」
苦い面差し、深く静かな嘆息。
「ま、ゆっくりやれよ」
少なくとも俺が生きてる間は、お前の安全は保証されてるんだ。
樹鉄刀を肩に担ぎながらそう続けると、脛を蹴られた。
何しやがる。つか、こちとら具足巻いてんだ。痛いのはそっちだぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます