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 六十階層を越えた後も延々と永々と続く、重々しい佇まいの深淵迷宮エリア。


 分かっちゃいたけどマジ飽きた。

 只管に同じ風景とか、気分屋な俺には耐え難いものがある。


 なのでヒルダの『ヘンゼルの月長石』に併せる形で『ウルドの愛人』を使い、ランダマイズに転移する階段の出現位置を差し替え、手早く下へ下へと向かう我等一行。

 現在六十三階層。着々と最深部に近付いてる。


 ホント便利なスキルだ。戦闘に於いて使う気は毛頭無いが。

 リゼに危険が及んだ時くらいか。例外は。






 それにしても。


「やっぱり、だな」


 うなじを抉り抜かれ、息絶えた巨人型クリーチャーの遺した魔石とドロップ品を圧縮鞄に押し込みつつ、得物を見遣る。


「樹鉄刀がおかしい」

「は?」


 小さく呟いた独り言を耳聡く聞き付けたリゼが、此方を振り返る。


「リゼちーイヤーは地獄耳」

「意味不明なこと言ってんじゃないわよ。おかしいって何?」


 淡々と問う声音の端に混じった微かな震え。

 六十階層フロアボスとの一戦以降、リゼは些か神経過敏だ。


 まあ気持ちは理解できなくもないが、そう不安がるなよ。

 普段は図太いくせ、変なとこで繊細ちゃん。


「ん、いや、大した問題じゃねえ。ただ」


 二度三度、抜剣形態と休眠形態への移行を繰り返す。

 その都度に伝わる手応えの、小さな差異。


「剣身を形成する度、微妙に重心がブレてる。コンマ五ミリくらい、な」


 今まで、こんなことは無かった。

 お仕着せの如く均一だった規格の歪み。

 作り手――仕事への妥協を一切許さぬ果心の性格と腕前を鑑みれば、明らかな異常。


 深層での酷使に耐え兼ね、遂に壊れ始めたか。

 それとも、或いは。


「兆し、かね」


 真実がどちらであるにせよ、そう遠からず答えは出るだろう。

 鬼が出るか蛇が出るか。楽しみだ。


「ツキヒコ、リゼ、どうしたんだい? 何か問題でも?」

「いんや、なーんも。先を急ごうぜ」


 立ち止まったヒルダを促し、歩みを再開。

 隣に位置取ったリゼが、胡乱げに俺を睨む。


「本当に大丈夫なんでしょうね」


 疑り深い奴め。

 心配無用。自分の腕を食わせた影響か、寧ろ扱いやすくなってるくらいだ。


 第一、お前には俺を案じるよりも優先すべきことがあるだろうよ。


「そっちこそ、どうなんだ。の調子は」

「……芳しくないわ。制御に手間取ってる」


 苦い面差し、深く静かな嘆息。

 左様さいで。実戦投入は暫く先、か。


「ま、ゆっくりやれよ」


 少なくとも俺が生きてる間は、お前の安全は保証されてるんだ。


 樹鉄刀を肩に担ぎながらそう続けると、脛を蹴られた。

 何しやがる。つか、こちとら具足巻いてんだ。痛いのはそっちだぞ。





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