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――参った。
至極そのひと言に尽きる。
「どうなってんだよ、ここは」
フロアボスやダンジョンボスが坐す十の倍数の階層は、精々が半径数百メートル程度の規模。
深層であっても、それは変わらない筈。
にも拘らず、この六十階層はなんだ。
既に四半刻は歩けど、未だ全容の窺えぬ巨大迷宮。
リゼ達とも逸れてしまった。
更に。
「『ウルドの愛人』が使えねぇ」
壁や天井。差し当たり目に映った物へと対象を定めても、そこに内包された『あり得たかも知れない過去の可能性』が視えない。
こんなのは初めてだ。
「……つーか、そうだ。なんかヒルダの奴も『ヘンゼルの月長石』が発動しないだのなんだの言ってた、ような」
何せ六十階層に下りて早々このザマ。ロクに会話や相談を行う暇など無かった。
噂に聞いた
一体、如何なカラクリか。
仮説こそ幾つも脳裏に浮かべど、何かを断定するには全く情報が足りない。
かと言って、これ以上ウロウロ歩き回ったところで事態が好転するとも考え難い。
――ふう。
「マジで参ったな……」
結局のところ足を使ってリゼ達との合流を図る以外、選択肢が無い。
そんな判断に至った俺は、ギリギリ疲労が嵩まない程度の速さで階層内を駆け巡る。
「怪我してねぇといいんだが。
こうやって分断された時のため数本はリゼにも持たせてあるが、あくまで非常用。欠損部位の再生すら可能な
「リゼー。おーい、どこだー」
かれこれ幾度目となろう呼び掛け。相変わらず返答はナシ。虚しい。
と言うか腕輪型端末の同期による位置情報共有機能はどうした。
「って、いつの間にか同期切れてやがる。肝心な時に役立たずかオイ」
これだから機械はアテにならん。
リゼ、ついでにヒルダもたずねて三千里。
すまん嘘だ。実際には三里くらい。
「あ」
「あァ?」
突き当りの角から、ひょこっと顔を出した人影。
濡羽色の髪、気だるそうな赤眼、パツパツスーツとギチギチベルト。
「月彦。良かった、無事だったのね」
静かな安堵の溜息と共に俺へと歩み寄る。
そして、手を伸ばせば届く距離まで近付いた瞬間。
「死ね」
貫手で以て、その心臓を貫いた。
「がッ――」
驚愕を露わに瞠目、腕を引き抜くと同時に噴き出る鮮血。
崩れ落ちるように倒れた
「馬鹿め、と言ってやる」
せめてヒルダに化けりゃ良かったものを。すぐ見破れたわ。
何故ならば。
「グッと来ねーんだよ、ダァホが」
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