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「いやー、僕達ツイてるよね!」
階段に腰掛け、愉快げにヒルダが笑う。
「まさか一日ちょっとで難攻不落の深淵迷宮エリアを折り返し地点まで進めるなんて。キてる、キてるよ、天中殺の逆が」
天中殺と来たか。陰陽五行説とか十干十二支の思想ってドイツにも浸透してるのか。
翻訳機が上手い具合に意訳しただけかも知れんけど。
何にせよ。
「知らないって幸せね」
「変に勘繰られるよりいい。正直『ウルドの愛人』は説明が面倒臭いからな」
ヒルデガルド絶好調ォーッ、と声高に謳い上げ、バームクーヘンを齧るヒルダ。
一方で精神的なソーシャルディスタンスを取りつつ、適当に相槌を返す俺達。
――どうでもいい話だが、ヒルダはアレを日本産のケーキだと思い込んでいる。
案外ドイツ人は見たことなかったりするんだよな、バームクーヘン。
「ところで、ちゃんヒルよぉ。前々から、ひとつ聞きたいことがあったんだが」
「ちゃんヒル……く、くふっげほげほ」
俺の台詞回しがツボに入ったらしく、キンキンに冷えたコーラで噎せるリゼ。
疲れてる時って、妙なことで笑っちゃったりするよね。
「ふむ、何かな? 今はツキまくってて気分が良い、スリーサイズから初体験の思い出まで赤裸々に語ることも構わないくらいにね」
「ちゃん、ヒ、ルッ」
リゼちー笑い過ぎ。
「そう、あれは十三歳の夏――」
「語るな語るな。一体誰が、てめぇのアレだのソレだのクエスチョンしたよ」
俺が尋ねたいことは至極単純明快だ。
誰であれ気になるような、真っ当で順当な疑問だ。
そう。
「なんで俺達だったんだ?」
たった三人で未踏破ダンジョンたる青木ヶ原天獄に挑もうと考えた経緯は、深淵迷宮エリアに踏み込んだ今なら理解出来る。
こんな場所を大人数で攻めれば、あっと言う間に分断されて手間が増えるばかりだからだ。
……けれど。一面識も無かった俺達を、わざわざ探してまで選んだ理由が分からん。
もっと言えば、ヒルダは俺達に会うまでリゼの存在を知らなかった。
即ち来日前に段取りを組んでいた当初は、俺と二人で攻略に乗り出す心算だった筈。
そのような思考に至る道筋が、さっぱり見えない。
「いくら国元の
ぶっちゃけ『ウルドの愛人』の方が噛み合いは遥かに良かったけど。
「ドイツでも日本でも、もっと他に候補が居ただろ」
話は未踏破ダンジョンの攻略。一線級のパーティに声をかけるのが道理。
なんならDランカーと手を組むことだって叶ったろう。
にも拘らず、ヒルダが選んだのは俺とリゼ。
「理屈に合わねぇ」
「……ふふっ」
ぶつけた疑問に返ったのは、微笑。
次いでヒルダは、さらりと髪をかき上げた。
「簡単だよ。キミ達が、僕と対等だからさ」
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