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 夜道を誘う案内は、月光で輝く小石をひとつひとつ拾うかの如く。

 ヒルダが『ヘンゼルの月長石』の説明を行う際、気取って並べた文言である。


「お前ぶっちゃけ厨二だよな」

「なんだと、このやろう」


 ひどく剣呑な目を返された。


「実際そーだろ? 肩掛けコート、軍服、二刀流。あからさま過ぎる」

「それならキミは悪の四天王じゃないか」


 よくも言いやがったな、てめぇ。


「誰が登場したら打ち切り濃厚設定の権化だコラ叩きのめすぞ」

「アハハハハッ。先にゴングを鳴らしたのはキミだよ……?」


 互いにジリジリと間合いを取り、一触即発の臨戦態勢。

 面白れぇ、いい機会だ。八幡反転都市では水入りとなった決着、今ここで――


「こんなとこで下らないケンカすんなバカ共」


 二人揃ってリゼに蹴りを食らい、怒られた。






 深層で仲間割れとか、確かに自殺行為で御座いました。

 間接的な死因とするにも馬鹿馬鹿しい限り。危うく末代の恥になるとこだ。

 猛省。


 …………。

 で、えーっと、何考えてたんだっけか。

 ああ、そうそう『ヘンゼルの月長石』についてだ。


 ――とどのつまりヒルダのスキルが教えてくれるのは、直近で取るべき行動のみ。


 左に曲がれ、前に進め、梯子を登れ、階段を下りろ、五秒立ち止まれ。

 そんな些細を無数に積み重ね、目指す場所への道筋を組み上げるのだと。


 曰く「だからゴールまでの進捗率とか僕自身さっぱりなんだよね」との談。


 しかも一度対象を定めてスキルを発動させたら、辿り着かぬ限り解除不可能だとか。

 下手すれば数日、数週間、数ヶ月、文字通りの三千里を訪ね回る羽目にもなりかねない。


 ちなみに案内を無視するとどうなるのか聞いてみたところ。


「『ヘンゼルの月長石』が齎すのは、その場その瞬間に於ける最短ルートの第一歩だ。脇道に逸れれば、そっちに合わせた別ルートを出すだけの話さ」


 要はカーナビみたいなもんか。


 尚、目的地の設定を行うには、人物なら顔と名前を知っていること、場所なら風景を克明に思い浮かべられることが、それぞれ条件として必要らしい。


 そしてダンジョン各階層を繋ぐ階段は、全てが寸分違わず同じ構造。

 引っ切り無しに構造を変える深淵迷宮エリアの攻略には、まさしく打って付けってワケだ。




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