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「そこを右」


 はい右。


「次の角を右」


 はいはい右。


「あ、敵」


 とぅおー。


「すかさず右」


 みぎー。


「なんか右」


 らいとごー。


「右右右右右右右」


 みぎぎぎぎぎぎ。


「もう全部右でいいよ」


 投げ遣りが過ぎる。


「かと思いきや左」


 舌の根も乾かねぇうちにか。


「で、右」


 …………。


「なぁヒルダ。本当に、ホントーに、お前のナビに従ってりゃ下に行けるんだよな?」

「勿論。来日初日、新宿駅で三時間迷った僕を信じたまえ」

「なんで、わざわざ説得力を失わせるエピソード添えたのよ……」






 青木ヶ原天獄、深層部。通称『深淵迷宮エリア』。

 並み居る探索者シーカー達の誰もが、このダンジョンの攻略を諦めざるを得なかった、世界屈指の難所。


 その理由は、現れるクリーチャーの埒外な強さ――






「チッ、またか」


 空気の歪みとでも呼ぶべき違和感が、背骨を掻く。


 歩みを止める。

 示し合わせたかのように、足元が揺れる。


 否。正しくは、階層そのものが揺れ始めた。


 うっかりようリゼを抱き寄せる。

 そして幾許かの後、その瞬間は訪れた。


 壁であった筈の場所が通路となり、通路が伸びていた筈の場所が壁となる。

 そんな、急激かつ大規模な変化、変容、変貌。


 やがて広大無辺、複雑怪奇な迷宮は、時間にすれば十秒を回るかどうかのリフォーム期間で以て――構造の一切を、がらりと様変わりさせてしまった。





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