222






「ここの奴等は一等に珍妙だな」


 襲いかかってきた天使――を殴り伏せ、蹴り抜き、粉々に砕いた後、消え行く間際の亡骸、無数の欠片ひとつひとつを視る。


「遠目じゃ天使と見間違えたが、実態は水晶か何かの塊。縛り付けてる鎖も、よくよく検めれば身体の一部が、そう見えてただけ」


 生き物ではない。機械マシナリーでもない。

 系統としてはゴーレムやマリオネットが近いとも思えるが、同時に根本的な部分で差異を感じる。


 何せゴーレムなら核を壊せば済むし、マリオネットなら操ってる本体を倒せばいい。

 けれども、この天使モドキには核が無かった。後方で操作する本体も居なかった。

 大雑把に割った程度では意にも介さず、割れたまま戦い続け、拳よりも小さな破片に砕いて漸く停まった。


 今まで遭遇した如何なるクリーチャーともズレた存在。

 大いに興味を唆られる。


「これこれ、こういうのだよ。未知の敵と戦って情報を集め、謎を紐解き、対策を講じる。まさしく探索者シーカーだ」

「楽しそうね、月彦」

「ちくわ大明神」

「そりゃ楽しいに決ま――なんだヒルダ今の」


 翻訳機の誤作動だろう意味不明な相槌。

 予期せぬタイミングで挟んでくるんじゃありませんよ。びっくりするだろ。






 さて、楽しい謎解きタイムに突入……と張り切ったはいいが、残念ながらシンキングは一瞬で終わった。

 天使モドキについては、ヒルダが既に知っていたのだ。


「あれは『ニケードール』。属性エレメンタルが凝縮した生命体だね」


 つまり純粋なエネルギーの結晶に近しいモノ。

 矛盾した言い回しになるが、全身余さず急所であるため急所が存在しない、と。


「意外に強いし、割っても分裂するだけ。兎に角、手間のかかる相手さ」

「細かく砕いたら停まったのは、単純に動けるだけの出力を賄えないサイズになったからか」


 頷くヒルダ。

 成程、分裂。道理で小粒の魔石が散らばってるワケだ。

 割れた破片は各々別個体としてカウントされるのな。拾うの、めんどくさ。


「まあ形がある分、純粋に物理攻撃の効かない炎や雷の属性エレメンタルよりは与し易いよ」


 尤もな御高説だが、いちいち石屑の山を作っていては、その後に魔石を集める手間も合わせて亀の如き歩みとなってしまう。

 考えただけでダル過ぎだ。


「……ん。いや、待て。そうか」


 辟易に溜息を呑み込む最中、ふと妙案に至る。


 ニケードール。属性エレメンタルの塊。

 で、あれば。


「対処法の考案完了。そして都合良く次の獲物が到着」


 およそ飛べるような構造には見えない両翼を羽ばたかせ、俺達を取り囲む四体のニケードール。

 空中に生成、此方へと飛来させた水晶の槍を弾き、樹鉄刀を抜剣形態に移行。


「リゼ」

「ん」


 俺の短い呼びかけで諸々を察し、大鎌を振りかぶるリゼ。

 禍々しい外観の刃が、ひとつ大きく脈動する。


「『呪胎告知』……『フタツキ流斬ナガレ』」


 やがて放たれる、狂った笑い声にも似た風切り音を撒き散らす、赤とも黒ともつかない斬撃。

 通過した空間に歪みを残し、三つに裂けて三体を両断し――斬られたニケードール達は呪詛に侵食され、そのままボロボロと崩れ去った。


「豪血」


 残る一体を、樹鉄刀で横薙ぎに断つ。

 オテサーネクの芯材にメタルコンダクターの鉄が取り憑いた木剣。単に躯体を割っただけの殴打蹴撃とは異なり、属性エレメンタルへの直接干渉を可能とする武器。


 躯体の上下が泣き別れ、光の粒となって消え行くニケードール。

 残ったのは、一万円級の魔石と、ドロップ品だろう水晶の八角柱。


「なんだ。幽体なり呪詛なりで攻撃すりゃ良いだけの話か」

「御名答……本当は、と言えるほど簡単な相手じゃないけどね」

「てか月彦。最初の一体、どうして剣を抜かなかったのよ」


 なんとなく徒手で戦いたい気分だったから。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る