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ヒルダ――ヒルデガルド・アインホルンの保有するスロット数は七つ。
習得済みのスキルが幾つなのかまでは知らんが、差し当たり四つ、存在と詳細を伝えられている。
「アハハハハッ」
二十階層フロアボスの操る配下、無数の毒蜂。
けれども奴等はヒルダに近付くだけで、音も無く独りでにバラバラとなり、骸も残さず消えて行く。
その正体は、消えた両腕が握るサーベルの斬撃。
或いは周囲に展開させた三枚の盾によるカウンター。
見えず聞こえずの攻防。
それを実現たらしめているのは、三つのスキル。
「『
「『
「あー、そうそう。よく覚えてたな、偉いぞリゼ」
──習得者の影響で生じた音を消失する『凪の湖畔』。
このスキルの発動中であれば、足音も斬撃音も衝突音も、なんなら手榴弾やダイナマイトを爆発させようと一切無音。
ただし心音や呼吸音などの『生命そのものが繰り出す音』は消せず、音源が習得者から離れ過ぎても適用されない。
──触れたものを不可視化させる『ピーカブー』。
シンプルに有用なスキルだが、効果が発揮されるのは触れている間だけ。尚且つ生物は不可視化出来ない。
しかし、じゃあなんで自分の両腕を消せるんだっつう話。
不思議に思い聞いてみたところ、はぐらかされた。言いたくない事情があるんだろう。
──最後に『
手で触れた物体に力場を纏わせ、動かしたり固定したり、或いは己自身に用いることで空を飛んだり膂力を嵩増しさせたりと、使い道は多岐に亘る。
が、習得者以外の生物はスキルの対象にならず、半径十五メートルという効果範囲を越えれば力場そのものが掻き消える。
また、同時に展開可能な力場の数は九つ。六つ目からは個々の出力が落ち始めるとか。
ちなみに、この力場でも『ピーカブー』の発動条件は満たせるらしく、相性が良い。
「正直そんなに強力ってワケでもねぇラインナップだよな」
「ね」
見えも聞こえもしないってのは、確かに厄介。
けれども、これ等のスキルを脳味噌の足りない輩に持たせたところで脅威になり得るかと聞かれれば、易々と首を縦には振れない。
……まあ、そこら辺は大概のスキルに共通して言えることか。
強大な効果を秘めていようとも、習得者本人に能力と根性が無ければ扱いは縮こまる。
昔のファンタジー系ラノベで、主人公が雑魚相手にみみっちくレベルばかり上げた後、十全に力を振るえば勝てる筈の強敵を前にビビってまともに戦えなくなる、なんて展開は親の顔より見飽きたが、要はあんな感じだ。
尤も、ヒルダには全く当て嵌まらない例えだが。
「鉄より硬い甲殻。でも残念、僕はスキルを使わなくても斬鉄くらい出来る」
あらかた配下を始末し終え、女王蜂の眼前に立つヒルダ。
人の胴など枯れ枝も同然に断ち割ってしまえるだろう大顎が彼女へと迫り――届くよりも先、真っ二つに斬り裂かれた。
「スキルを使えば、この通り」
噴き散る紫色の体液がヒルダの纏う力場に跳ね除けられ、不自然な軌跡で滴り落ちる。
程なくスキルを解除したのか、順繰りに姿を現す三枚の金属板と双剣、そして両腕。
数多の毒蜂を受け止めた盾には傷ひとつ無く、数多の毒蜂を斬り伏せたサーベルには刃毀れひとつ無く、そしてヒルダ自身は返り血の一滴さえ浴びていない。
六割近い
それもダンジョン活性化により、本来の力を余さず宿した個体。タイマンで勝てる奴は、恐らく
にも拘らず、たっぷりと余力を残した上で、一切の無傷。
「結構なバケモノだな」
「おまいう」
ふと呟くと、欠伸混じりにリゼが言った。
失敬な。乳揉むぞ、てめぇ。
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