214
階段で仮眠を取り、日を跨いだ後、えんやこらさと十五階層を突破。
続く十六階層、即ち新たなエリアは、千紫万紅の花々が咲き誇るフラワーガーデン。
差し詰め『花園エリア』か。
「……んだよ。寝るんならここで良かったじゃねぇかよ」
「ね」
如何なるダンジョンの如何なる地点であろうとも、等しく同じ構造の階段。
腰を下ろしての休憩には十分な半安全地帯だが、横になって休むとなると話は別。
眠気こそ抜けたけれど、疲労は却って溜まった気がする。
「うう……」
「大丈夫かヒルダ」
猫背で呻くコイツに至っては、寝相悪くて階段を三百段くらい転げ落ちた挙句、寝惚けて受け身も取れず、しこたま背中を打ったからな。
防具纏ってなかったら死んでたんじゃね?
「ヒルデガルド。アンタのその軍服モドキ、あんまり性能良くないわね」
「これミドルモデルの上物なんだけど……や、でも確かにキミの装備よりは数段劣るかな」
全身ギチギチに巻いたパワーアシスト効果付きのベルト。その下には着る筋肉とでも呼ぶべきパツパツのスライムスーツ。
細身のリゼが、指三本までなら俺との腕相撲で勝てるほどの膂力を発揮出来る代物。
総額二億四千万円。大鎌も合わせりゃ約五億。
「ついでに言うと、僕は防御面の大半が盾任せだからね。服の方は耐毒とか耐腐食にリソースを割いて――痛い痛い痛い、背骨ズレたかも」
「マジか」
流石に大袈裟とは思いつつ、念のためヒルダの背中に触れる。
「ふぁ、あぁんっ」
肩甲骨の間に軽く指を押し込んだら、甘ったるい声を上げて腰砕けに崩れた。
どういうことなの。
「や、あっ……そこ、性感帯……」
「……ふーん」
「ふにゃあっ!? あん、やめ、やらぁっ!」
遊ぶなリゼ。
「今度から背中にプロテクター入れるよ……」
くつくつ笑うリゼを尻目、弄ばれたヒルダが肩を回し、溜息混じりに言う。
ああ、その方が良い。
「しかしまあ、長閑なエリアだな」
遠足気分でテクテク花畑を歩くこと暫く。
クリーチャーの一体も見当たらない、どころか気配さえも窺えない、ここがダンジョンであることも忘れてしまいそうな――
「――なんつって」
リゼを抱き寄せ、後ろに跳ぶ。
直後。ほんの四半秒前まで俺達の立っていた地面から勢い良く飛び出したバケモノ。
長大なイバラの胴体、赤い薔薇の花に似た頭部。
が、しっかり見れば花弁は妙に肉っぽく、鋭利な牙まで生え揃っており、美しさとは無縁な造形。
「えい」
俺に抱えられたまま、リゼがチドリで『飛斬』を放ち、クリーチャーの頭を落とす。
ボロボロと崩れて消え去る巨体。
残った魔石を拾い、圧縮鞄に詰める。
「ハハハハハッ。あっちこっちに今みたいなのが潜んでやがるな」
血や争いとは無縁な風体を装って、蓋を開ければ獲物を待ち構えるクリーチャー達の巣窟。
魔石のサイズを見るに正面戦闘では取るに足らない雑魚だが、こういう搦め手を使うとなると案外侮れんかもな。
「……アンタ、気付いててわざと真上を通ったわね」
「ハハッハァ! ちゃんと庇っただろ、お姫様?」
勿論、斯様な三下にリゼが遅れを取る筈も無いが、念には念。
俺の目が黒いうちは、コイツの柔肌に傷など入れさせん。
「あのさ。僕も割と食べられそうだったんだけど」
「あァ? 甘えんなよ先輩。てめぇの身は、てめぇで守りな」
足元で咲く青い花を一輪手折り、リゼの髪に挿す。
「生憎、この愛嬌の欠片もねぇ菓子狂いオアその他大勢とじゃ、優先順位が百億光年かけ離れてる」
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