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「ねぇ。物は相談なんだけどさ」
十一階層、十二階層、十三階層と、広さと複雑さゆえの労力を払いつつも、順調に峡谷エリアを突き進む我等一行。
そんな只中、十四階層に通ずる階段で休憩中、うずうずと落ち着かない様子のヒルダが話題を切り出した。
「次のフロアボス、僕に譲って貰えないかな?」
「……あァ?」
なーに寝惚けたこと抜かしてんだ、こいつは。
「頭ポップコーンかよ、てめぇ。オヤクソクを忘れたかァ?」
五十階層到達までフロアボスは俺の総取り。
厳正、厳粛、公平、公正な話し合いを経た末の決定事項。
尚、相談の際に用いられた方法はシェーレ・シュタイン・パピア。またの名をジャンケン。
五戦五勝の完膚なき勝利だった。
「どうしても駄目、かなぁ。大物を狩りたいんだ、深層まで堪えるのが辛いんだよ」
「どうしても駄目だね。恨むなら自分を恨むんだな、ジャンケンが弱過ぎた己の非力を」
「てかアンタが強過ぎるのよ。アンタの動体視力と反射神経なら、相手に合わせて出す手を変えるくらい簡単じゃないの」
ふはははは。その通りだリゼよ。
そうとも知らずヒルダの奴、俺にジャンケンなど挑みおって。
愚かなり、愚かなり。
「……じゃあ、せめて、あとワンチャンスを。もう一回だけジャンケンしよう、ね?」
「断る。テメェの提案には俺へのメリットが何も無い」
此方の言い分を尤もだと考えたのか、顎先に指を添えて暫し思案するヒルダ。
やがて小気味好く掌を合わせ、どこか妖艶さの漂う微笑みと共に、こう告げた。
「それなら――キミが勝ったら、僕を一夜、好きにしていいよ? 代わりに僕が勝ったら、二十階層と三十階層のフロアボスを頂戴」
「乗った」
――別に、北欧系ボーイッシュの色仕掛けに惑わされたワケじゃない。
あんな条件を出すということは、何かしら必勝の腹案があると触れ回っているも同じ。
ジャンケン三千四百二十七戦無敗の俺を下す策。大いに興味をそそられた。
「ですからリゼさん。その『やだ、男って単純〜』みたいな目は控えて頂けるだろうか」
断じて、北欧系ボーイッシュの色仕掛けに惑わされたワケじゃないのだ。
「だったら聞くけど、ヒルデガルドに勝ったら何する気なの?」
…………。
「さあ勝負だ。いざ尋常に」
「答えなさいよ、ねえ」
ええい、ガムを何枚も口の中に詰め込むな。
「さて、僕はチョキでキミはパー。僕の勝ちだね」
「なん……だと……」
普通に負けた。
ヒルダの奴、手を出す瞬間に右腕を不可視化させやがった。
これぞ究極の後出し。ぐぅの音も出ねぇ。
「ゴメンね。こういう勝ち方、あんまり好きじゃないんだけど……ガマン出来なくて」
「いや普通に反則でしょ」
呆れ顔のリゼが零すも、腕を消してはいけませんなどというルール、ジャンケンには無い。
次以降ならば言い含めることも出来ようが、此度は完全にしてやられた。
三千四百二十八戦目で儚くも崩れ去る俺の最強伝説。
さらば『常勝』の二つ名よ。
まあ正直に言うとテキトーな数字を並べただけだが。
人生で何回ジャンケンやったかなんて、いちいち数えてるワケねーだろ。几帳面通り越して神経質かよ、ビョーキだビョーキ。
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