212
「気持ち悪りぃ……」
底無し沼を這い出し、下層行きの階段まで渡り切ったものの、全身泥漬け状態の俺氏。
気に入りの装備、一張羅が台無しだ。
「リゼ。頼めるか」
「……『
首肯代わり、スキル発動。
足音も息遣いも、生命の気配すらも感じさせず、死神の如く俺を
「ハイおしまい」
すぐ背後で、囁きが耳朶に触れる。
衣服の内側にまで深く潜り、染み付いていた泥は、他の全ての汚れと合わせて、まるで幻だったかのように綺麗さっぱり消えていた。
…………。
ふむ。
「お前、いちいち撫で回さなくても他人に『消穢』使えたのか?」
「まーね。一瞬だけアンタに
ほう、そういうカラクリか。
スキルの容れ物であるところのスロットは、魂に根付いたもの。
幽体で他者に取り憑いたなら、その身体でも己のスキルを扱える道理。
逆に俺の『双血』や『ウルドの愛人』は使えないだろうけど。
「憑依とは、随分珍しいことが出来るんだね」
ペットボトルを宙に浮かせたヒルダが、感嘆混じりに呟く。
「出来るだけで、大した使い道なんか無いわよ」
対し、つまらなそうに淡々と返すリゼ。
そのまま俺に寄りかかる。
「しかも普通に『
軽い気持ちで任せたが、どうも結構な面倒と世話をかけちまったらしい。
待ってろ、すぐ出してやる。
沼地エリアの終点である十階層を抜けた先は、切り立った峡谷だった。
高低差が激しく、踏み締める足場は脆く、居並ぶクリーチャーは小柄で俊敏なものや空を舞うものばかり。
これまた言うに及ばず、厄介なエリア。
「しかも階段が遠い。十五階層まで半日かかるぞ、これ」
「今日中に、二十階層到達は無理そうね」
腕輪型端末のマップで道筋を確認し、遭遇した獲物を蹴散らしながら、えっちらおっちら。
欲を言えば、こんなものに頼らず進みたいところだが……流石に今回ばかりは探検気分で余計な時間や体力を使ってられんからな。
何より、これが役立つのは、どうせ五十階層まで。
なら精々、最短距離で突っ切らせて貰おうじゃないか。
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