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 ナマクラの剣を振り翳し、奇声と共に飛び掛かるゴブリンの心臓を貫手で穿つ。

 刺し貫いたまま百キロ近い重量を片腕で持ち上げ、引き抜くついでにブン投げる。


 ……ふむ。


「今のは……探索者シーカーになる前の八割増ってとこか」


 握力だけでも四百キロに迫るだろう。

 体格にも体重にも大きな変化は無いと言うのに、人体の限界すら踏み越えつつある膂力。

 恐らくは『鉄血』を使い続けたことで、骨、内臓、神経、血管、皮膚、筋繊維の一本一本、果ては細胞の一個一個に至るまでもが余さず強度を底上げされ、そこへ『豪血』による身体能力の根本強化が合わさった結果。

 無駄に輪郭が膨らまないのは助かる。可動域が狭くなるからな。


「最終的には自動車くらいなら、スキル無しでもブン投げられるようになりそうだ」


 生き血を代償とした『双血』のブーストは、素の能力に対する

 遵ってスキル発動時は、習得当初の倍近いパフォーマンスを発揮出来る計算。


 尤も、ゴブリンどころか十番台階層程度のクリーチャーであれば、今更スキルなど無用だが。


「十が十五になったところで、百から二百に上がった俺の相手を務めるには、同情しちまうくらい役者不足なんだよなァ」


 ギチギチと籠手の指先を軋ませ、最も手近だった一体にデコピンを食らわす。


 銃声にも似た破裂音。

 前頭骨が陥没したゴブリンは脳味噌をシェイクされたことで目鼻口耳七孔から真っ黒な血を垂れ流し、力無く崩れ落ちた。


「……アレ、本当にスキル使ってないんだよね?」

「日に日に怪物指数は上がる一方よ」


 聞こえてるぞリゼ。

 なんだ怪物指数って。






 ゴブリン数十体の屍を踏み越え、迷宮エリアを抜けた俺達を六階層で待ち構えていたのは、仄暗い沼地だった。

 ガスでも湧いてるのか、漂う悪臭。常人を遥かに凌ぐ嗅覚に刺さって辛い。


「勘弁しろよ。装備が泥塗れになるじゃねーか」

「私は平気」

「僕も平気」


 泥濘に脚を突っ込むも、たちまち『消穢』で一切の汚濁を跳ね除けたリゼ。

 テレキネシスを体表に纏わせているのか、そもそも泥が衣服や靴まで届かないヒルダ。


「……世の中ってのは不公平なもんだ」

「その通りだけど、少なくとも理不尽が服着て歩いてるような男の言う台詞じゃないわね」


 肩をすくめたリゼがチドリを振るい、木立の隙間から此方を窺っていた猿のようなクリーチャーを仕留める。

 見事に首を断ったな。呪詛を孕ませた『流斬ナガレ』と違い、ただの『飛斬』では放った後に太刀筋の操作など出来ないのに。

 まさしく正確無比。


「さっさと進みましょ。ここ辛気臭くて嫌い」


 それに関しちゃ、全くの同感だ。




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