209
「何か、他所の迷宮エリアと雰囲気が違うような気がする」
冷たい石で四面を鎖され、前後へ通路が伸びるばかりの第一階層。
道なりに進む俺達の足音以外、一切の音が聞こえてこない、異様に静かな、張り詰めた空気。
「これがダンジョンの活性化か。思い返せば軍艦島でカタストロフが起きてた時も、妙な違和感があったな」
けれどあの時は、どちらかと言えば静けさとは無縁。
空間自体が揺らめき、ざわめいているような、兎にも角にも落ち着きの無い感覚だった。
「あれとは寧ろ逆よ」
俺の呟きを拾ったリゼが、手中でチドリを弄びながら言葉を返す。
「ダンジョンボスが討たれたダンジョンは、ボスを復活させるために膨大なエネルギーを消耗するわ」
つまり、その分だけ他への配分が減ると。
「翻って、ダンジョンボスが長らく健在であれば、其方に過度なリソースを回す必要が無くなるワケさ」
後半を引き継いだヒルダの言に、小さく頷くリゼ。
……とどのつまり、カタストロフをダンジョンの『暴走』と受け取るなら、ダンジョンボス存命による活性化は『本来の在り方』となる道理か。
成程。確かに正反対だ。
「お。ゴブ発見」
三割増しで空気が重い気がしなくもない迷宮エリアを歩くこと暫し。
この青木ヶ原天獄で初となるゴブリン、略して初ゴブと遭遇した。
「俺がやる」
数は二体。スキルも抜剣も不要。
踏み込んで詰め寄り、一体の頚椎を蹴り砕き、もう一体には内臓破壊の拳打を叩き込む。
「……?」
爪先と指先に、それぞれ微妙な違和感。
首を一回転させるつもりだった蹴撃は半回転に留まっており、即死させるつもりだった拳は、血を吐きながら石床をのたうち回らせるのみ。
取り敢えず、足元で転げるゴブリンの頭を踏み潰し、トドメを刺す。
はて、加減間違えたか。
「んー? なんかコイツ等、普通のゴブより少しデカくね? 身体つきもマッシブだし」
消える間際の醜悪な小鬼を、まじまじ見遣る。
「て言うか、それが本来のゴブリンよ」
正答をくれたリゼ曰く、攻略済みのダンジョンは支援協会主導の定期的なダンジョンボス討伐による
つまり未踏破ダンジョンは、クリーチャーのポップ頻度や個々の強さという点でも、他を一段凌ぐらしい。
「ほう」
魔石を拾う。
確かに今まで倒して来たゴブリン達のそれよりも大きい、ような。
元が小粒過ぎて分からん。
――まあ何にせよ、ゴブリンを殺すには十分過ぎる威力を篭めた筈の一撃で即死しなかったことは事実。
マスク越し、口の端が緩々と吊り上がって行くのを感じた。
「ハハッ。なんともなんとも、素敵に愉快だ」
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