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 受付窓口での手続きと着替えを済ませ、鬱蒼と木々の茂る樹海内へと足を踏み入れる。


 最低限の舗装と、二本のロープでの線引きが施された遊歩道。

 大人が並んで歩くには、少々狭い道幅。


 ……だと言うのに、何故ヒルダは俺の横にピッタリ張り付いてるんだ。


「おい、前か後ろ歩けよ。邪魔ったるい」

「え。いや、でも、ほら、キミが石に躓いて脚でも折ったらコトだろう?」


 転んだくらいで折ってたまるかよ、アンポンタン。俺は骨粗鬆症のジジイか。


「アホなドイツジョーク抜かしてねぇで離れ――このっ、はな、離せやぁっ!」

「まあまあまあまあ」


 テレキネシスで身体を覆い、力の増強を図ってまで、しっかと掴まれた腕。

 なんだコイツ。


「察しなさいよ月彦。大方、怖いんでしょ」

「あァ?」


 欠伸混じりにリゼが告げると、ヒルダの肩が小さく跳ねた。


「自殺の名所」

「っ」

「ガチの心霊スポット」

「ひっ」

「あ、向こうに透けた人影が……」

「ひぅぅぅぅっ」


 マジ泣きしそうな顔で俺にしがみ付くヒルダ。

 それを見て、くつくつと笑うリゼ。

 遊ぶな。






「ひぃ!? い、いい、今、そこの木陰で何か動いた!」

「ただの蛇だ」


 人間、一度恐怖心を募らせると、普段は笑ってしまうようなことにすら怯えてしまうもの。

 リゼの揶揄いが相当にらしく、蒼褪めた表情で俺に縋り寄り、落ち着きなく周囲に視線を巡らすヒルダ。


 どうやら心霊ネタは本気でダメらしい。

 しかし、それだとコイツ、幽霊レイス系や怪異・都市伝説系のクリーチャー共には一体どう対処してたんだ?


「あ、あいつ等は、クリーチャーだし……」


 尋ねてみれば、そんな返答。

 納得出来るような、今ひとつ出来ないような。


「ひいぃっ!? あ、あっち、今度はあっち!」

「猿だっつーの」


 ……果たして、このザマでダンジョン攻略になど臨めるのだろうか。


 責任取れとばかりリゼを振り返ったら、気だるそうなウインクと投げキッスで誤魔化された。

 ちったあ悪びれろや。ありもしない愛嬌で押し切ろうとすんな。


「きゃあぁぁぁぁっ! ツキヒコ、あれ! あそこぉっ!」

「ええい、次から次へと」


 今度は何だ。


「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」

「んだよ、ただの包丁持った不審者じゃねーか」

「え? あ、ホントだ」


 そっと胸を撫で下ろすヒルダ。

 血走った目で俺達を見据える不審者。


 ………………………………。

 ……………………。

 …………。


「リゼ、警察に電話」

「もしもしポリスメン?」


 秒で取っ捕まえて、引き渡した。





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