207
受付窓口での手続きと着替えを済ませ、鬱蒼と木々の茂る樹海内へと足を踏み入れる。
最低限の舗装と、二本のロープでの線引きが施された遊歩道。
大人が並んで歩くには、少々狭い道幅。
……だと言うのに、何故ヒルダは俺の横にピッタリ張り付いてるんだ。
「おい、前か後ろ歩けよ。邪魔ったるい」
「え。いや、でも、ほら、キミが石に躓いて脚でも折ったらコトだろう?」
転んだくらいで折ってたまるかよ、アンポンタン。俺は骨粗鬆症のジジイか。
「アホなドイツジョーク抜かしてねぇで離れ――このっ、はな、離せやぁっ!」
「まあまあまあまあ」
テレキネシスで身体を覆い、力の増強を図ってまで、しっかと掴まれた腕。
なんだコイツ。
「察しなさいよ月彦。大方、怖いんでしょ」
「あァ?」
欠伸混じりにリゼが告げると、ヒルダの肩が小さく跳ねた。
「自殺の名所」
「っ」
「ガチの心霊スポット」
「ひっ」
「あ、向こうに透けた人影が……」
「ひぅぅぅぅっ」
マジ泣きしそうな顔で俺にしがみ付くヒルダ。
それを見て、くつくつと笑うリゼ。
遊ぶな。
「ひぃ!? い、いい、今、そこの木陰で何か動いた!」
「ただの蛇だ」
人間、一度恐怖心を募らせると、普段は笑ってしまうようなことにすら怯えてしまうもの。
リゼの揶揄いが相当に
どうやら心霊ネタは本気でダメらしい。
しかし、それだとコイツ、
「あ、あいつ等は、クリーチャーだし……」
尋ねてみれば、そんな返答。
納得出来るような、今ひとつ出来ないような。
「ひいぃっ!? あ、あっち、今度はあっち!」
「猿だっつーの」
……果たして、このザマでダンジョン攻略になど臨めるのだろうか。
責任取れとばかりリゼを振り返ったら、気だるそうなウインクと投げキッスで誤魔化された。
ちったあ悪びれろや。ありもしない愛嬌で押し切ろうとすんな。
「きゃあぁぁぁぁっ! ツキヒコ、あれ! あそこぉっ!」
「ええい、次から次へと」
今度は何だ。
「ふーっ! ふーっ! ふーっ!」
「んだよ、ただの包丁持った不審者じゃねーか」
「え? あ、ホントだ」
そっと胸を撫で下ろすヒルダ。
血走った目で俺達を見据える不審者。
………………………………。
……………………。
…………。
「リゼ、警察に電話」
「もしもしポリスメン?」
秒で取っ捕まえて、引き渡した。
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