195






「……まずは謝罪を」


 色々と騒いだ所為でクリーチャーが集まり始めたため、四十階層行きの階段半ばへと場所を移した俺達。

 そこで足を止めるや否や、女が神妙な顔で深々と頭を下げた。


「いくらなんでも不躾が過ぎた」


 リゼに睨まれて頭が冷えたのか、一見穏やかな瞳の奥に潜んでいた好戦的な色は無い。


「お嬢さんにも大怪我をさせるところだった」

「それに関しちゃ本気で許さん」


 腕の三本四本ヘシ折ってケジメつけさせるか。


「いいわよ別に。結果的には掠り傷ひとつ負ってないもの」


 お前、なんで微妙に機嫌が良いんだ?






 さもありなん。

 リゼが謝罪を受け容れたのなら、俺だけギャーギャーと引き摺る理由は無い。


 何より先刻の小競り合いも、不完全燃焼だったとは言え中々に楽しめた。

 その駄賃と言うのも変な話だが、此度の件は水に流そう。


「君達の寛容に感謝を……昔からの悪い癖でね。気が昂ると、つい噛み付くのを我慢出来なくなる」

「まるで、どっかの誰かさんみたいね」

「おい、そりゃ誰のことを指してやがるのか聞こうじゃねぇか」


 なんと失敬な。

 俺は我慢出来ないんじゃなくて、ハナから我慢する気が無いだけだ。


「本当なら君との顔合わせも、こんな荒っぽくするつもりは無かったのに……」


 曰く、フロアボスを倒したばかりで血に酔ってたらしい。

 浮ついた暴力的な気分に後押しされ、予め組んでいた段取りを思わず投げ捨てたとか。


「子供の頃なんか、しょっちゅう誰かを血祭りに上げては、こっ酷く姉さんに叱られたし……」


 ………………………………。


探索者シーカーになったらなったで「お前は手に負えない」とパーティを追い出されること七回……」


 ……………………。


「問題を起こしては、稼いだお金を慰謝料に充てて揉み消すこと三回……」


 …………。


「流石に国外だと庇い切れないから、くれぐれも大人しくするよう念を押され続けたのに、この始末……」


 ふむ。


「てめぇ、だいぶ考え無しだな」

「おまいう」

「喧嘩売ってんのかリゼ」


 なんと失敬な、第二幕。

 俺は考え無しなワケじゃなくて、ただ己の欲求に身を任せてるだけだ。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る