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「なっ」


 防がれるならまだしも、躱された。

 想像もしなかったろう此方の対応に、女が双眸を見開く。


「刃渡り九十三センチ、幅は約六センチ。その鞘より一尺ばかり長いな」


 大方、空間圧縮技術を用いたブラフ。

 武器と身体、更には直に触れていなかった盾まで不可視化させられるのだ。発動条件は知らんが、この上で鞘だけ消せないとは考え難い。

 にも拘らず、これ見よがし腰に吊り下げたまま。間合いを誑かす仕込みくらい入れていると踏むのが当然。


「中途半端に知恵の利くクリーチャーなら引っ掛けられても、人間様は騙せねーぞ」


 宇宙人とでも出くわしたような目を向けられた。

 リゼも時々、こんな風に俺を見る。


「……参考までに……何故、剣の正確な寸法が分かったか聞いても?」


 何故も何も、姿勢や重心の移り方を細かく見極めれば、自ずと弾き出せる。

 せめて脚も消すべきだった。流石に胴だけだと、見極めにあと十秒くらい手間を食った。


 そう告げたら、困惑を露わに一歩二歩と退く女。

 なんだその反応。傷付くわ。


「君と向かい合っていると、一秒毎に服を一枚剥がされてる気分になるよ」

「ハッ。んな台詞は、真面目に戦ってから並べやがれ」


 すっかり舗装の剥がれてしまった道路に突き立てた樹鉄刀を引き抜き、肩に担ぐ。


「もう小手調べは十分だろ?」


 現時点でも、確かに強いは強い。

 が、この程度では精々、四十階層フロアボスに勝てるかどうか。


 と言うか、連戦や長期戦に主軸を置いた、マネジメント重視の戦い方だ。

 極力消耗を抑え、最小限の力で雑魚を蹴散らすためのスタイルだ。


 要はダンジョン深部への侵攻が第一目的の立ち回りであり――戦闘用のそれではない。


「ボチボチよぉ、実力見せてくれや」


 確実に持ち合わせている筈。

 眼前の敵を屠ることだけにリソースの全てを注いだ、純粋な闘争のための牙が。





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