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緩急を織り混ぜ、女の背後に回る。
樹鉄刀の柄頭で腰椎を狙うも――やはり寸前で止められた。
「チッ」
間髪容れずバックステップ。
女の足元に転がる瓦礫が吹き飛び、割れた舗装路に亀裂が増える。
察するに衝撃波の類なのだろう。
予備動作が無いどころか音ひとつ聴こえず、効果範囲もバラついてて見極め辛い。回避が厄介だ。
とは言え、これで応酬も四度目。概ね掴めてきた。
この女の不可解な点。つまりスキルなり装備なりの異能と思しきものは、今のところ五つ。
両腕とサーベルの不可視化。
己が影響で生ずる音の無音化。
最初にリゼを狙った遠距離攻撃。
此方の攻め手を遮る障壁。
そして、その障壁が報復行為の如く放つ衝撃波。
十中八九、他にも何かあるんだろうが、向こうに使う気が無さそうなため、差し当たり捨て置く。
まずは現状で晒されている手札の詳細把握と攻略が先決。
尤も――既に大体、終わってるが。
「豪血」
都合、五度目の仕掛け。
見の段階は過ぎた。然らば小細工は不要、正面から詰め寄る。
「赤い光を帯びると強くなる。青い光を帯びると硬くなる。確か『双血』だったかな?」
希少な不老効果付きとは言え、ランダム式限定のマイナースキルを良く御存知で。
なんて、わざとらしいか。
取り分け、俺の場合は見た目に分かり易く特徴が表れる。少し調べれば一発だ。
「身体強化系のスキル持ちと分かった上で、何度も懐に入れるか普通」
「言ったろう。僕は君の力が知りたいんだ」
そうかい。
なら希望通り、見せてやるまでだ。
「シッ!」
手が塞がって邪魔なので、ひとまず樹鉄刀を蹴り上げる。
数秒、徒手を得た俺が無数の選択肢から攻撃に選んだのは、掌底突き。
深く腰を落とし、打つ。
当然、見えざる壁に遮られるも、全くの想定内。
更に今回は、この直後のカウンターを躱さない。
「鉄血」
動脈を伝う赤光が静脈を伝う青光に切り替わると同時、俺を貫く衝撃。
が、内臓に至るまで硬化した防御を抜くには不足。精々、多少の痛痒を染み込ませる程度。
そして俺には痛みなど、何の妨げにもならない。
吹き飛ばされないようにだけ留意し、踏ん張る。
掌底突きを選んだ理由は、単純に自然な所作で腰を据えたかったからだ。
「え」
初撃を食らって以降は回避一辺倒。
故に此方の行動が予想外だったのか、女の表情が強張る。
勿論のこと、悠長に考える時間は与えない。
続け様、掌を押し返す不可視の障壁を、五爪で以て掴む。
「ハハッハァ」
引き剥がす。
次いで――放り投げる。
「しまっ……」
女は手を伸ばすが、届く筈もなく。
廃ビルの壁に音を立てて突き刺さったそれは、スキルの射程距離を離れたのか、衝撃波で壁を粉砕した後、可視化する。
中心に赤い石が埋め込まれた、八角形の金属板。
「まず、ひとつ」
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