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 鼓膜が痺れるほどの強烈な悲鳴。

 幾らか合間を挟んで耳鳴りが収まった頃、今度は別の音が聴覚に触れた。


 打って変わって、静かで規則的な靴音。

 誰か下りて来る。


 ……まあ、その点に関しては、別段不思議でもなんでもない。

 ここはダンジョン。探索者シーカーならば誰であれ受け容れる場所。


 強いて奇妙を挙げるなら。


「一人だな」

「はぁ? 嘘でしょ、四十番台階層までソロで? アンタ以外にも、そういうことする奴が居たのね」


 人をなんだと思ってやがる。


 しかし事実、二十番台階層以降でソロの探索者シーカーに出くわしたことは、今まで一度も無い。

 単孤無頼の危険など犯さずとも、十分に稼げるからだ。


「身長一七五あるかないか。体重七十キロ弱。恐らく女。右か左の腰に武器を帯びてる」

「なんで分かるのよ」


 足音の響き方で重さは割り出せる。

 音の間隔と近付いて来る速度で歩幅が分かるし、歩幅が分かれば大体の身長も掴める。


 あとは、それ等の情報を用いた簡単な推察だ。

 この背丈に対し装備一式込みで、この重量。まず男とは考え難い。

 僅かずつ交互に異なる足音。重心が片側に寄ってる証拠。得物による偏りと考えるのが自然。


「つっても分かったところで、なんだっつう話だが」


 どうせ、直ぐにでも目見えると言うのに。






 別に階段ですれ違っても良かった。

 けれど、こんな所まで単身乗り込む肝の据わった同業者の顔を陽の下で拝みたくなり、出入り口手前で待つ。


「――おや?」


 やがて現れたのは、やはり女が一人。


 凡そ見立て通りの背格好。明るい金髪を肩上で切り揃えた、欧州系の顔立ち。

 旧い将校服を思わせる意匠の装束。羽織ったコートの胸元には、どこかで見覚えのあるメダルが複数、鉄十字と共に留めてあった。


「やあ。はじめまして」

「あ? あぁ、はじめまして」


 左腰に佩用した二本のサーベルの位置を直しつつ、慇懃に一礼される。


 純正の外国人的な容姿とは裏腹、滑らかな日本語。

 いや、聴こえた言葉と口の動きが違う。翻訳機か。


「随分と探したよ。トードー・ツキヒコ」

「……?」


 思考に注いでいた意識が、名を呼ばれたことで浮上する。


「探した? 俺を?」

「うん」


 こともなげに、女は頷いた。


 ……誰が、どこのダンジョンにアタック申請を出しているかは、調べれば確かに分かる。

 だが俺の場合、登録名を適当に変えてる。非公開の探索者シーカー登録番号ナンバーでも割れない限り、支援協会以外の人間が足取りを追うなど不可能な筈。


 協会への伝手か、或いはモノ探しのスキルでも持ってるのか。

 何にせよ、サインや写真目当てじゃなさそうだ。


「用件を聞きてぇな」


 女が微笑む。

 纏わり付くような殺気が、喉笛を撫でた。


「君の力を、僕に教えて欲しい」





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