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 高速再生の機能さえ奪ってしまえば、あとは動き回りながら程良く暴れるのみ。

 各所での此方に対する反応を見て頭脳に当たる施設を探し出し、噛み砕けばいい。






「ダイナミックお邪魔致します」


 無数の火器と五重の隔壁で守られた、いかにもな一室。

 消耗と空腹で動くのも億劫なリゼを瓦礫の中に避難させて踏み入ったそこは、地球の様式とは明らかに異なる構造のコンピュータールーム。


「ビンゴ」


 所狭しと詰め込まれた電子機器。

 流石に各々の用途までは分からんが、取り敢えずデカい順で叩き潰して行く。


 腕輪型端末にリゼからメッセージが入ったのは、ひとしきり破壊活動を終えた後。

 表示した空間投影ディスプレイには、短く「止まった」とだけ記されていた。






「こういうタイプの奴も居るのな」


 ディストピア系の映画撮影にでも使えそうな有様と成り果てた五十階層を見渡しつつ、なんとはなし呟く。


 ――腕輪型端末で調べたところ、このダンジョンボスの名は『アサルト・シティ』。

 階層全域に張り巡らせた生体センサーで侵入者を察知し、一切手を休めず攻撃し続ける自律思考武装都市。

 まさしくマシナリー系クリーチャーの親玉と呼ぶに相応しい。


「こういうタイプ?」

「倒すためのギミックが組まれてるっつーか」


 あの赤い塔――リペアタワーと呼ばれる修復システムを停止させた上で先程のコントロールルームを破壊しなければ止まらない。

 また、リペアタワー自体にも高い再生機能と防御装甲が備わっているため、本来は塔の最上階で停止コードを入力するのが常道とか。


「停止コードなんてあったのね」

「階層内にランダムで保管されてて、毎回場所が変わるみたいだな。あの砲火の中、これを探すのが第一の難関らしい」


 俺達の場合、リゼが塔を直接破壊したワケだけれど。


「リペアタワーには対属性アンチエレメンタルコーティングも施されてたそうだが、流石に呪詛までは防げなかったか」


 呪詛に対抗する手段は同じく呪詛を用いるか、或いは強い魂や精神力で跳ね除けるか。

 意思無き機械にとってリゼの『呪胎告知』は天敵たりうる。おまけに『幽体化アストラル』で各種センサーも掻い潜れるし。

 逆に俺の『呪血』は相手の意識を介して肉体に干渉するため、プログラム通りに動くだけの電子回路の塊には用を成さないが。


「規模がデカい所為かリポップタイムも長いな。三ヶ月だとよ」

「特別手当の額は?」

「三千万」


 八尺様の三倍以上。完全に難度六ダンジョンボスの水準を飛び越えてる。


「最低三十人での討伐を推奨……八尺様は確か十人だったな」


 必要な頭数が多い分、額も跳ねるのか。割に合わなければダンジョンボスなど誰も倒そうとしないからな。

 およそ半年に一回の周期で有志を募り、討伐が行われるそうだ。


「ゴリ押しは難しいか。呪詛系スキルの習得者なんぞ殆ど居ねぇし」


 加えてリゼがこうも巧みに『呪胎告知』を扱えているのは、他のスキルに依るところも大きい。


 撒き散らすだけだった攻撃に指向性と威力調整の余地を齎した要である『飛斬』。

 圧し固めた呪詛に意思を取り憑かせて操る『幽体化アストラル』。

 憑依の際の精神汚染を未然に防ぐ『消穢』。

 正確な照準に不可欠な空間認識能力を底上げする副次効果がある『ナスカの絵描き』。


 この五つ揃っての『流斬ナガレ』であり『処徐壊帯』。

 連発が利かないとは言え、ここまでの攻撃を単身で行える探索者シーカーは稀。此度のような強引極まる手段でアサルト・シティを倒せる者が、果たして日本に何人居るだろう。


 ――まあ何にせよ、二度目の難度六ダンジョンボス攻略は、またしてもリゼありきの勝利となってしまった次第。


「三千万だよ、やったねリゼちゃん」

「折半に決まってるでしょ」


 さりげなく総取らせ作戦、失敗。

 家の押し入れにでもブチ込んで忘れよう。





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