180
「……ん」
各階層同士を繋ぐ階段の途中で、目を覚ます。
どのダンジョン、どの階層帯であろうと、幅も長さも角度も段数も材質も全て同じ。カタストロフ発生時や誰かが意図的に追い込みでもしない限り、まずクリーチャーが立ち入ることの無い半安全地帯。
「ふあァ……」
「おはよ」
瞼を開き、最初に視界へと収めたのは、俺を見下ろすリゼの静かな眼差し。
硬い石段とは裏腹な、柔らかい感触で包まれた後頭部。
「……やっぱ最近、腰回りの肉付き良くなったよな」
「ふふん」
得意げに口の端を上げるリゼ。
身体を起こす。貧血による吐き気や倦怠感などは、すっかり治まっていた。
「どれくらい寝てた?」
「きっかり三十分」
四十番台階層ともなると、流石に『双血』の出し惜しみは出来ない。
取り分け、ここの連中は『呪血』が効き辛い上に数も多く、どうしても戦闘に時間を取られがちだ。否応無く血は擦り減る。
尤も『錬血』のお陰で用量制限の厳しい増血薬を使わずとも、こうやって頻繁な回復が出来るため、ペース配分自体は軍艦島の時より楽だ。
一律で三十分間、強烈な睡魔に襲われることと、無性に喉が乾くのが難点だが。
「ん」
心得ているとばかりのタイミングで、よく冷えたペットボトルが手渡される。
一気に飲み干した。沁みるぜ。
「ぷはっ……さて、そう言えば今日で何日目だ?」
腕輪型端末の表面に浮かぶデジタル数字。
アタック開始より、およそ七日半を示していた。
「意外に早く着いたもんだ」
少人数に加え、スキルの性質上、継戦能力に難がある俺達は、どうしても補給や休息の回数が多くなる。
にも拘らず、存外に攻略速度は早い。不思議だ。
「私達、基本的に来た道を引き返さないし。進みながら戦って、進みながら休んで。そりゃ結果的に急ぎ足にもなるわよ」
「ほぼ勘でルート選んでるんだがなァ」
己の足で踏破していない階層では、基本的にマップを見ない。
にも拘らず、何故か早々に階段を探り当ててしまう。
そして階段を見付ければ下りたくなる。その繰り返しで、気付けばここまで来ていた。
「お前の補給は?」
「済んでるわ。一昨日からは補充と節約に努めてたし」
大鎌を軽く振り回し、三本指を立てるリゼ。
「フルで三発行けるわ」
「軍艦島の時と同じか」
山場に合わせて、キッチリ調整して来やがる。
ホント頼もしいね。
「んじゃ、参るとしますか」
「りょ」
石段を踏み鳴らす、二人分の足音。
向かう先は、この八幡反転都市のダンジョンボスが待ち受ける最深部――五十階層。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます