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倒壊し朽ち果てたビル。
舗装を砕いて伸びる樹木。
原形すら失った何かの残骸。
まさしく滅亡という表現の相応しい風景。嘗ての栄華を想起させる、崩壊した文明。
煤けた天蓋で覆われた空。そよ風ひとつ立たない静寂。
〈敵発見。排除スル〉
動くものと言えば俺達二人と、無機質な合成音声と共に駆動音を響かせ向かって来る、珍奇なガラクタくらいだ。
「鉄血」
ホバリング移動で此方に急速接近しつつ、躯体の上下に延べ六門備わった機銃を掃射するマシナリー系クリーチャー。
機械だけあって狙いは正確無比。秒間千発は下るまい弾の殆どを、キッチリ俺に集めてる。
単発毎の威力も中々侮れない。これは食らい続けたら少しまずいな。装備が痛む。
「いや避けなさいよ」
どう対処するか考えていたら、呆れ混じりの呟き。
背後から俺の身体をすり抜ける形で飛び出した幽体状態のリゼが、チドリに『ヒトツキ
呪詛を混ぜ込んだ、飛ぶ斬撃。
更に『
此方もまた正確無比に、火を噴く銃身の悉くを斬り刻んだ。
「そのナイフで『
「
最近になって聞いた話だが、本来『呪胎告知』は使う度に媒体とした得物を破壊するスキルらしい。
しかもエントリーモデルのナマクラ程度では呪詛を注ぐ段階で粉々に砕け、まともに発動させることも叶わないとか。
世に殆ど出回っていない七十番台階層クリーチャーのドロップ品を素材に造られた、文字通り破格の性能を持つ臨月呪母だからこそ耐えられる負荷。
そいつを『
〈エマージェンシー、エマージェンシー、エマージェンシー、エマージェンシー、エマージェンシー……〉
機銃以外の武装が無いのか、センサーライトらしき赤い光をチカチカ明滅させ、動きを止めるクリーチャー。
自爆でもする気かとワクワクしたが、数秒待っても動く気配が窺えなかったため焦れて『豪血』発動。
形状から見て動力部と思しき箇所を樹鉄刀で貫き、沈黙させた。
「……軍艦島のクリーピーパスタ共と比べたら歯応えに欠けるな」
或いは装備の充実と『双血』による肉体強化が進んだ影響で、俺自身の力量が上がったのか。
何にせよ、四十番台階層だからと些か期待し過ぎたみたいだ。
落胆気味にそう思っていたら、ふとリゼに肩を叩かれた。
「アレ」
指差されるまま振り返れば、今し方に倒したばかりのクリーチャーと同型の個体、及びその近似種。
それも尋常ではない数が此方に押し寄せる、圧巻の光景。
「……成程。自爆じゃなくて仲間を呼んでたのか」
即ち、個より群で力を発揮するタイプ。
縄張り意識が強く、徒党を組まなかった軍艦島の連中とは真逆。
一種類だけの武装も、近接戦未対応のルーティンも納得だ。
「面白れぇ。団体様の相手ってのも味がある」
樹鉄刀を構え直し、フードを被る。
一方でリゼは気乗りしないのか、微妙に渋い顔をしつつ……やむなしとばかり、大鎌を振り上げた。
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