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引っ越しから幾許か経ち、 ミーハー精神旺盛な自称ファン共や、礼儀という言葉の存在自体を知らないような記者連中の突撃も、段々と落ち着きを見せ始めた。
結構な、大変結構な話だ。
民衆とは移り気なもの。影響力こそ大きいものの枠組自体は狭い
八ヶ国合同での難度十ダンジョン――リ・アトランティスへの部隊派遣によるカタストロフ反応の安定化成功。
日本のトップパーティ『
SRCで俺が負かしたアイドル
過去というものの鮮度は、時を経るに連れて少しずつ落ちて行く。
俺自身が頑なにメディア露出を拒んだことも手伝い、思ったより早く風化してくれそうだ。
――などと楽観視してたら、とんでもないことになった。
「どういうハナシだぁぁぁぁああッッ!!」
甲府迷宮二十三階層。
襲い来るヴァンパイア系クリーチャーを樹鉄刀で斬り刻みながら、声の限りに吼える。
「落ち着きなさいよ」
「これが! 落ち着いて! いられるか!」
四千円級の魔石と、過去の差し替えで出したドロップ品を拾う。
血のように赤い結晶。加工すると鮮やかな色の塗料になるらしい。
背中越し、リゼに投げ渡す。
「やりっ。マニキュア、ゲット〜」
そいつは良かったな。
だけどな、こっちはちっとも良くないんだよ。
「一体どこのどいつだ、軍艦島での件をリークした奴ぁ!」
折角、いい感じに話題性が薄れつつあったのに。
お陰で、すっかり再燃。いや、前より酷くなった。
「ファンにアンチに取材に勧誘! ロクに表も歩けやしねぇ、暇人共が!」
「無理ないわよ。難度六のダンジョンボスなんて、倒せる奴の方が少ないもの。それを当時デビュー三ヶ月だったルーキー以前のド新人が仕留めたとなれば、ねぇ?」
廊下の奥で漂う
正確無比に虚空を翔る斬撃。何の抵抗も無く首を刎ねられた
「況してやアンタの場合、カタストロフ沈静の立役者って触れ込みだし」
「週刊誌の大袈裟極まる記事の所為でな! 大体、八尺様を倒したのは七割方お前だろうが! こちとらトドメを掻っ攫っただけだ!」
何もかも全部、俺一人で片付けたみたいな騒がれ方が気に入らん。
もっと言うなら騒がれること自体、煩くて勘弁。
「クソッ、こうなったら面と向かって真実を公表しようぜ! 取材陣に毅然と告げるんだリゼ、デマゴギーに負けるな!」
「嫌よ。私、目立ちたくないし」
「大昔に流行った最強系ラノベの量産型主人公みてぇなこと言いやがって……!」
死なば諸共作戦、失敗。
リビングアーマーの冑を毟り取り、バランスを崩したところを蹴り壊す。
「ま、何日かしてほとぼりが冷めるまで、ここで過ごせばいいでしょ。今週は講義も無くて暇だったし、付き合うわよ」
「そいつが無難か……チイィ、こうなったら憂さ晴らしに甲府迷宮を攻略してやる!」
なんか最近の俺、あんまり
あぁ、ストレスが溜まる。
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