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 冬休み明け以降、俺の身の回りは多少騒がしく、鬱陶しいものへと変わって行った。


 例えば、ファンを名乗る連中の訪問。

 何故、俺の通ってる大学や住んでる家まで分かるのか。


 他にも、雑誌記者だの新聞記者だのフリーライターだの、そういう輩の取材と称した迷惑行為。

 問答無用で追い返してる。報道の自由の意味を履き違えた愚か者どもめ。大体なんだよフリーライターって、無職と何が違うのか教えてくれ。


 なんなら、テレビ局からの番組出演依頼や、聞いたことあるような無いようなプロダクションからのスカウトマンも来た。

 挨拶もせずカメラを向けてくるような奴も少なくなかった記者よりは礼儀を弁えてたので、此方は丁重に断ってる。

 これ以上、世に晒されるなんぞ御免被るわ。


 ――まあ、アンチが突撃かけてきた時は、ちょっとだけ面白かったが。


 どうもSRC決勝でアイドルをボコボコにしたのが気に入らなかったらしく、向こうのファンはネットで俺を叩きまくってる。

 そして、それだけに飽き足らず、一部の過激な奴等が直接攻撃を図ったワケだ。


 生憎こちとら泣き寝入りするほど育ちの良い真人間ではないので、漏れ無く全員に相応の報復を与えてやったが。

 俺、やる時はやる男。






「そんなこんなで、引っ越そうと思う」

「唐突ね」


 ベッドに仰向けで横たわり、パーカーの裾から伸びる長い脚をパタパタさせながら欠伸するリゼ。

 差し当たり、人の話を聞く態度じゃねぇ。


「大学は兎も角、家まで来られるのは流石に迷惑だ。今日だって、ここ来るまでに尾行された」


 かるーく撒いてやったが。


「大変ね」

「お前も他人事じゃねーだろ。SNSの所為で俺とパーティ組んでるのバレてんだぞ」

「私は住所割らせるほど迂闊じゃないもの」


 ちくしょうめ。これがネット慣れしてるかどうかの差か。


「……兎に角、だ。人の噂も七十五日なんて言うが、二ヶ月半も待ってられん。てか大家に追い出されそうなんだ」


 元々、娘さんにコナかけようとしてるとかなんとか、目の敵にされてたし。

 そんな覚えはねぇ。そう俺と変わらん年なのに旦那さんを亡くした未亡人だってんで、色々辛いし大変だろうと思い、男手が要りそうな時に助力してただけの話。


「実際問題、他の住人から苦情が来ねーのが不思議なくらいの有様でよ」

「アンタにケチつけるくらいならヤクザの組事務所に特攻かける方がマシだって思われてるんじゃない?」

「お前な」


 ちったあ歯に衣着せたらどうなんだ。


「ったく……明日あたり、不動産屋行って来るわ」

「ねえ起こして」


 テーブルに着きたいらしく、無気力に両腕を広げたリゼを抱き止め、引き起こす。

 こら離れろ。たった三歩の移動が面倒だからと無精するな。コアラか。


「上手い具合に手頃な物件がありゃ良いんだが」

「なんなら私と一緒に暮らす? 部屋ひとつ余ってるし」


 ああ。そういう手もあったな。


「他にアテが見付からなきゃ考えとく」


 人の膝を枕にするな。結局、寝転がるんじゃねーかよ。





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