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久々に二人でダンジョンを攻めるべく訪れた、探索者支援協会甲府支部。
だが……何やら、いつもと様子が違う。
「人多くね?」
「ね」
平時なら十人も居れば盛況と呼べるロビー。
しかし今日は何故か三十人近く屯している。それも見知らぬ顔ばかり。
時の流れは早いもので、かれこれ半年を回る
必然、ホームであるところの甲府迷宮を出入りする同業者の顔触れも、なんとなく把握してる。
とどのつまり、たまたま常の面々のアタックのタイミングが被りに被ったワケではなさそうだ。
よくよく注視すれば半数が腕輪型端末を嵌めていない、即ち
「ダンジョンに潜らない日も風呂や飯目当てで頻繁に来てるが……最後に顔を出した時は普段通りだったぞ」
甲府迷宮は攻略難度の割、比較的高額で取引されるドロップ品が多い。
二十番台階層に入ると極端に広大化するものの、前半部分が階層のそこかしこに個室どころかベッドまで擁する古城エリアとあって野営も容易く、長期滞在に向いている。
加えて、この支部は
本来なら、もっと評価されて然るべきダンジョンなのだ。
――が。だからこそ、皆あまり他人に教えたがらない。混雑と快適は往々に相反する概念だからだ。
探索者支援協会の運営予算は国庫から出る。よって職員が資金繰りに頭を悩ませる必要が無く、カタストロフ反応を起こさない程度には人手も揃ってるため、積極的な広報活動も行われていない。
だと言うのに、どうなってる。まさか口の軽い誰かが情報をリークしたのではあるまいな。ネット社会恐るべし。
折角の穴場が台無しだ。
「チッ……こりゃ騒々しくていけねぇな。リゼ、いっぺん出直そうぜ。いつものダーツバーで軽くドリンクでも――」
「あのっ!」
膨らませたガムの中に別の風船を作るという離れ業をやっていたリゼに向き直る。
と。言葉尻も待たず、背後よりの呼び掛け。
「あァ?」
振り返れば、幾許かの緊張を湛えた、やはり覚えの無い顔。
見ると、ロビーに居る面子の大半の意識が、いつの間にか俺達に集まってる。
過度な視線を嫌ったのか、リゼが俺の背後に立ち位置を移した。
「あ、あの、あのっ……」
「なんだよ。別に取って食いやしねぇ、落ち着いて話せ」
高校生くらいの年頃。いつだか品川大聖堂で会った、活きのいい少年を思い出す。
目の前の彼は、何度か深呼吸を重ねた後――立ったまま地に額をぶつける勢いで低頭し、右手を突き出してきた。
「とっ、藤堂月彦さん、ですよね!? SRC観ました、ファンです! 握手して下さい!!」
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