171
「そう言えば、こんなの売ってたわよ」
鍋をつつきながら休み中の出来事を語らう内、話題がSRC関連に移ったあたりでリゼが部屋の隅に置いた紙袋を取る。
中身を引っ張り出すと、見たところ何の変哲も無いTシャツ。
しかし、広げた前面のプリントを目にした瞬間――血の気が失せた。
「…………何だ、それ」
イラスト加工された、俺のバストアップ写真。
恐らくSRC本戦一回戦で偽野郎の熊ゴリラと戦った時のもの。
御丁寧に「俺が藤堂月彦だ」の台詞入り。
「SRCの後って、こういう本戦出場選手のグッズが出たりするのよね。反響次第ではテレビ出演の依頼なんかも来るらしいわよ」
Tシャツの他にも出て来る出て来る、キーホルダーやブロマイド。果てはスカルマスクのレプリカまで。
肖像権の侵害だ。訴えてやる。
「しかし期待したほど強くなかったな、本戦の連中」
シメの雑炊を用意しながら、ふと呟く。
「準決勝のSチューバーは一回戦の熊ゴリラ以下」
まあ後でアイツの投稿動画を確認したら最深到達二十一階層だったし、あんなもんか。
デビュー三年以内に自力で二十番台階層に到達してるだけで、普通なら大したものらしいけど。
「決勝のアイドル野郎は装備も俺のより良かったし、そこそこマシではあったが……」
選択式スキルペーパーで習得可能な中でも指折りに強力な戦闘系を七つ揃えたラインナップ。
要は金とコネにモノを言わせたスキル構成。なんと『飛斬』も持っていた。
威力も速度も射程距離も命中精度も、完全にリゼの下位互換だったが。
「やっぱ片手間に
優勝候補と扱われるだけあり、単品ではボチボチ使えていた。
が、やはり五つのスキル特性を完全に掌握し、果ては複合技までやってのけるリゼとは雲泥の差。
と言うか。
「お前なんで出なかったんだ?」
今年度のSRC参加資格を持っていた新人の中で俺と渡り合えたろう希少な一人。
コイツ基準に相手の強さを考えてた所為で、もろ肩透かし食らっちまった。
「『呪血』は『消穢』で効かねぇし『
ついでに、実家帰りを拒否する大義名分も得られた筈。
「晒し者は御免よ。ストーカーでも湧いたら面倒だし」
「あー」
俺も絶賛後悔中。無許可でグッズなんか出しやがって。
……いや待て。そう言えば大会参加の契約書類に、そこら辺の記述があったような。
時間ギリギリだったから読み飛ばした俺の馬鹿。
「それに。もし出場してたとして、アンタ私と本気で戦えた?」
「む」
侮るなよ、こちとら男女平等社会の申し子だ。
やる時はやる人だぞ。
…………。
なんとはなし、リゼの頬を撫でる。
きめ細かく柔らかい、まさしく玉肌。
「お前に傷を付けるのは、なぁ」
「……ところで。雑炊、もう食べていい?」
どうぞ、お好きに。
機嫌良く声を上擦らせて、よっぽど食いたいらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます