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「で、蟹鍋ってワケ?」
「ああ」
リゼのマンションで二人テーブルを囲み、煮える土鍋を見下ろす。
カセットコンロは、市販の魔石電池を嵌め込むタイプ。
「こういうの使ってると、俺達が普段何気無く拾い集めてる魔石が如何に便利な代物か良く分かるよな」
ボタン型のガワにゴブリン数匹分の極小魔石を溶かして流し込んだだけの単純構造でありながら、調理用のカセットコンロ程度なら最大火力でも一週間は連続使用可能。
これが事象革命以前だと、ペットボトル大のガスボンベなんて嵩張る燃料を使う上、一本で数時間も保たなかったとか。捨てる時も処理が色々と面倒だったらしい。
だが魔石電池は内包エネルギーが尽きたら、そのままリサイクルボックスにポイだ。昔の化学電池みたく経年劣化もしない。欠点と言えば、バッテリーのように再充填が出来ないことくらいか。
尤も、溶かし固める技術が確立して以降は加工の容易さに注目され、エネルギー切れのクズ魔石にも爆発的に需要が増えた。
最たる例は、地球素材とダンジョン素材とを掛け合わせる際の繋ぎ。
ダンジョン素材と強くぶつけただけで消滅してしまう地球産の素材に、予めクズ魔石を混ぜ込んだり表面をコーティングしたりすると消滅を避けられる。俗に言う対ダンジョン加工。
攻防力付与オイルなんかも、実はクズ魔石を水に溶かしたものだったりする。
固形時は割と強度も高く、細微な装飾に耐えるため、アクセサリーの材料にも人気。
かく言う俺自身、先代のスカルマスクにはクズ魔石を使ってたし。
「いい塩梅だな。そんじゃ具をブチ込むか」
焼いた甲羅と昆布で取った出汁に、ちゃんこ系の具材を並べる。
蟹の足がデカくて、はみ出そうだ。
「こら、まだ入れたばっかりだぞ。煮えるまで待て」
ゆっくり伸びる魔の手にストップをかけると、恨みがましそうな目。
曰く帰省中は会食やパーティーばかりで満足に食べられず、慢性的に飢えてたらしい。
なんとなく可哀想に思い、甲羅と一緒に焼いておいた足を差し出す。
リゼは剥ぎ取るように殻を剥き、食べ始めた。
「周りを気にせず食べられるって素敵」
「本当に窮屈そうだな、お前の実家」
深く深く、頷かれた。
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