168・閑話5
――アイツは、私を窒息死させる気か。
直前まで不機嫌の極みだった筈なのに、暗鬱な気分が吹き飛んでしまった。
声を堪えるため、鬱陶しいカクテルドレス越し、腿に爪を立てる。
「
肩を震わせる私に気付いた母が、心配そうに尋ねる。
当たり障り無く返しつつ、化粧を直して来ると小声で告げ、席を立った。
「あーもう。死ぬかと思った」
ひとしきりトイレで笑い転げた後、深呼吸して息を整える。
……父母に無理やり連れられた、昔からの取引先で個人的な付き合いもあるとかいう一家との会食。
大方、同席していた令息と私の顔合わせをさせたかったんだろうけど、退屈過ぎて寝そうだった。
だから、せめてもの暇潰しに体内ナノマシンを通して右目と右耳だけスマホに接続。網膜投影と骨伝導で、行けなかったSRC本戦の様子をリアルタイムで観てた。
そしたら……ホント、何やってんの月彦の奴。
「ふくくっ」
似ても似つかない熊ゴリラみたいなのが自分を名乗っててムカついたのは分かる。もし私が同じ立場なら相手を斬り刻む。
でもSNSに写真一枚上げるのも嫌がるくせ、全世界に配信されてる中で素顔と本名晒すとか。
「考え無しよね。青い血って、皆ああなワケ?」
タイプ・ブルー。
スロット持ち同様、事象革命以降に生まれるようになった、極めて特殊な血液型。
外気に晒されると青味を帯びるその血は、持ち主に優れた才覚を与えるのだとか。
明確な根拠の無い眉唾話と切って捨ててたけど、月彦という実例を見ると……。
「…………」
頭は良い筈なのに、理屈や理性よりも感情や本能を優先する男。
徹底的な刹那主義で、明日が誰もに確約されたものではないと極端なくらい割り切っていて、どこか生き急いでる。
まるで、打ち上がった花火のような在り方。
「……っ」
思い返す。先程、目に刻んだばかりの戦いを。
また強さを増していた。
どんどん強くなる。どんどん前に進んで行く。
――このままでは、遠からず私は完全に追い抜かれ、二度と追い付けず、置き去られてしまうだろう。
月彦の歩みは早過ぎる。月彦の歩幅は大き過ぎる。
でも――「待って」だなんて、口が裂けても言えやしない。
「足手纏いは、嫌よ」
枷となりたくない。置いて行かれたくない。
一緒に隣を歩いていたい。少しでも長く。
だって。目を離せば、独りにすれば、すぐにでも死んでしまいそうだから。
「ねぇ。どうしたら、いいのかしら」
鏡に映る己と視線を重ね合わせ、自問する。
「貴女は、どうすべきだと思う?」
光明があるとすれば、ただひとつ。
「最後の、スキル」
何を選べば、私は。
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