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ちょいちょいと、近くを飛んでいたドローンカメラに手招きする。
AIが反応したのかモニター管轄のスタッフが気を利かせてくれたのか、俺の正面で滞空するカメラ。
実況者にも連絡が回ったらしく、耳のインカムに指を添え、何度か頷いてマイクのスイッチを入れる。
〔どうやらインターバル前にスカル・スカー選手から声明があるようです。優勝宣言でしょうか?〕
トイレなどのために立ち上がりかけていた観客の大半が動きを止め、俺の映る空間投影ディスプレイに視線を注ぐ。
つむぎちゃんは此方を直接じっと見てたが……蜘蛛って、そんなに視力良かったっけ。
「〔……もう喋っていいのか?〕」
スピーカー越しの声と肉声が同時に鼓膜を打つ気色悪い感覚に眉を顰めつつ実況者を仰ぐと、返ったのは肯定。
ひとつ、首を鳴らす。
「そんじゃ……〔会場にお集まりの皆さん。並びにテレビ中継やネット配信を御覧の皆さん。この場を借り少々お時間を頂きたい〕」
通り良く、穏やかに喋る。
こういうのは掴みが肝心だからな。演説向きの声質で良かった。
「〔俺は今――すこぶる不愉快だ〕」
手始めの挨拶によって、表面的な耳目だけでない、意識に至るまでが此方に向き始めたタイミングを見計らって語調を変える。
低く、刺々しく。聴いた者に突き刺さるように。
「〔何故と問われれば、つい数分前に大嘘を聞かされたからと答えよう〕」
「〔誰にと重ねて問われれば、今し方に戦ったばかりの対戦相手にと答えよう〕」
大仰に両腕を広げる。
声色の次は所作で、更に意識を集める。
「〔一体、奴がいつから今日のような名乗りを使っているのか。知らないし、どうでもいいし、興味も無いが。ひとつだけ、ハッキリと言えることがある〕」
数秒ほど、間を置く。
「〔――あの男は、藤堂月彦じゃあない〕」
今日以前より、大なり小なり俺の噂を聞き知っていたと思しき観客の顔色が変わる。
およそ全体の一割弱。多い。思いの外に多い。
好事門を出でず悪事千里を行くって、ホントなのな。
「〔真っ赤な偽者だ。世の中の何人かの人間が、藤堂月彦をアレだと認識していると思うだけで……狂いそうになる〕」
いやムカつくわマジ。あんな熊ゴリラが俺とか。
「〔よって改めて頂きたい。今より告げる言葉を、脳髄に刻み付けて頂きたい〕」
ここからが一番大事なとこだぞ。どいつもこいつも、ちゃんと聞いとけよ。
アンコールは受け付けないからな。何度も繰り返すと却って嘘臭くなる。
「〔俺が。藤堂月彦だ〕」
ふはははは。言ってやったぜ。
――そして盛大に、やらかした。
素顔と本名、全世界に発信しちまったよ。
知らない間に保証人とかにされたら、どうしよう。
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