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大会運営側の機材と接続した体内ナノマシンが発する失神警告を受け、会場宙空に光り輝くKOの文字。
重ねて、そこかしこを飛び交うドローンカメラが撮っていた映像のリプレイを映す空間投影ディスプレイ。
フィニッシュシーンのスロー再生に、観客達が沸き立った。
〔一回戦第四試合、決ッ着! 優勝候補の名に恥じぬ猛攻で見事な先制を飾った藤堂選手ですが、それを意にも介さず受け切り、正面から粉砕したスカル・スカー選手! 途中、自らフードとマスクを外し素顔を晒したのは、対戦相手の健闘を称えての行為でしょうか!?〕
〔そういう雰囲気ではなかったように思いますが……試合中はカメラが寄れなくて音声までは拾えませんからね〕
つむぎちゃんは……泣いてる。めっちゃ泣いてる。推しの武道館ライブが決まった時のファン並みに泣いてる。
まだ一回戦なのに。甘木くんも御両親も「何もそこまで」みたいな顔してるし。
……ところで、偽野郎は大丈夫だろうか?
苛立つあまり、ちょっとだけ加減をミスったかも知れん。エンターテインメントの場で死人なんか出して来年以降は開催自粛とか、俺が空気読めない奴みたいで後味悪過ぎる。
確かめとこ。もしアレそうなら、こっそり過去を差し替えとこ。
「うへへぇ……やっぱホンモノは強えぇ……益々ファンになっちまうぜぇ……」
あ、大丈夫っぽいわ。白目剥いたままブツブツうわ言漏らしてる。
なんで嬉しそうなんだコイツ。マゾかよ怖っ。
担架に乗せられ、四人がかりで連れて行かれる偽野郎。
重そうだな。身長こそ大きくは変わらんものの、全身が膨れ上がった筋肉の鎧で体重は優に俺の倍以上あるだろうし。
にしても。
「スペックは中々だったんだがな」
ぶっちゃけ弱くはなかった。素の膂力に限って言えば、今の俺とも極端な差は無いレベル。
スキルの方も本人の述べていた通り、確かに優れていた。
それにかまけずラッシュの一撃一撃に腰を入れてりゃ、少しは違った戦いになったろう。
「勿体ねぇ」
真実その一言に尽きる。
……まあいい。既に終わったことだ。そこに「もしも」は存在しない。
過去を差し替えられる俺が言うと、なんか話が拗れてしまう気もするけど。
〔それでは会場の修復に十五分間のインターバルを取った後、準決勝第一試合の選手入りとなります〕
SRC本戦は一日で決勝まで進むスケジュールとなっている。
各選手には試合が終わる度に
しかし、この割かし惨憺たる有様の会場を十五分で元通りに出来るのか。
スタッフに物を直せるスキル持ちでも居るのかね。
「と……そうだ。感心してる場合じゃねぇ」
退場の前に、世間様の誤解を解いておかねば。
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