162






〔な、なな……なんとぉ!? スカル・スカー選手、突然の痛烈な反撃!〕


 衣服の埃を払う。籠手の指先が尖ってるため、引っ掛けないよう丁寧に。

 ふむ。流石は軍艦島三十番台階層の都市伝説系クリーチャー及び四十番台階層のクリーピーパスタ共から巻き上げたドロップ品で作らせた装備。布だと言うのに素晴らしき強度と耐熱性だ、なんともない。

 素材持ち込みで安く済んだが、本来なら材料の希少性含めてフルセットで三千万円は下らんらしいからな。値段も性能もハイエンドモデルに片足突っ込んでる。


 ……さて、と。


〔あれだけの攻めを受けながら、ほぼダメージを感じさせない足取りで藤堂選手に歩み寄るスカル・スカー選手!〕

〔対物理攻撃系のスキルか、装備による恩恵かと。他にも予選時の動きや、今し方に藤堂選手を吹き飛ばした膂力から、かなり強力なスキルを複数所持していると思われます〕


 実況と解説が所見を語る中、じっと熊ゴリラを眇める。


「が……はっ……」


 ほう、意識があるのか。殺さない程度の手心を加えたとは言え感心感心。

 鳩尾に膝を入れた時も骨折や内臓破裂の手応えは無かったし、見た目通りタフで、見た目より良い防具だな。


 にしたって、あの勢いでレンガの壁と衝突した割には軽傷過ぎる気もするが。しかも妙に深く埋まってるし。

 まあ何にせよ、叩き起こす手間が省けた。話が早くて助かるぜ。


「……お前が藤堂月彦だって? 笑えねぇ冗談もあったもんだ」

「ぐ……な、に……?」


 意識こそあれども衝撃で動けないのか、苦悶の表情にて俺を見返す熊ゴリラ。


「髪を灰色に染めりゃいいとでも思ったか? クオリティの低いコスプレみたいな真似しやがって」


 確かに地元を出れば、俺の顔を直接知る奴は少ないだろうよ。

 だがしかし、人を騙るならせめて似せる努力をしろや。

 大柄、灰髪、全身の傷痕。この三つくらいじゃねーか、被ってる特徴。

 ふざけた話もあったもんだ。


「て、めぇ……まさか……知ってん、のか……?」

「……知ってるも何も」


 フードを取り、狂った認識を戻す。

 次いでマスクのギミックを作動させ、顔を晒す。


「……………………へ?」


 唖然。呆然。まさしくそんな表現が相応しい様子で、目を丸くする熊ゴリラ。

 やがて少しずつ顔面蒼白となり、震え始める。


「り……龍、王……?」

「やめろ、それ」


 自分で名乗ったこととか、いっぺんもねーよ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る