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 何が何やら意味不明であるが、三つだけハッキリしている話がある。


 一。今、俺の前に立つ熊ゴリラが、俺と同姓同名で、俺と似たような人生を送った奇跡の産物みたいな存在でもない限り、意図して俺に扮した偽物野郎だということ。


 二。つむぎちゃん達が首を傾げていたのは、俺のハンドルと本名の両方がトーナメント表に記載されていたからだということ。


 そして三――この試合のライブ配信を見てるだろうリゼの奴が、今頃必死で笑いを堪えていることだ。


「へっ、随分と歯応えの無さそうな幽霊野郎だぜ。だが安心しな、こう見えても紳士なんだ。甚振る真似はしねぇよ」


 頼むから喋るな、お前。後々リゼに弄られまくる。

 つか、まずその特攻服やめろ。んなもん着たことねーから俺。


〔それでは――試合開始ぃっ!!〕


 スタジアムの喧騒を貫き、鳴り渡るゴング。

 フライング寸前のタイミングでダッシュをかけた熊ゴリラが、猛然と俺に迫る。


 ……踏み込みの瞬間、足元が爆発した。

 スキルか。どんな効果だ。


「豪血」


 全身に奔る赤光。

 とは言え顔の上半分くらいしか露出の無い装備だ。フードも被ってるし、傍目には分かるまい。


 ちなみに『豪血』を使った理由は応戦ではなくのため。

 研ぎ澄まされた五感と引き伸ばされた体感時間で以て、攻撃を仕掛けんとする熊ゴリラに目を這わす。


「食ら――」


 服装には少々不似合いなアーミーブーツ。あれで爆発から己を守っているな。

 同じ素材のグローブも嵌めてる。わざわざ服の上から、膝当てと肘当てまで。


 となると足先だけでなく、膝、拳、肘でも同じことが可能と踏むべきか。

 実際、俺に殴りかかろうとしてるし。足限定のスキルなら蹴る筈。


 尤も、蹴りとの二択で優先したということは、パンチはパンチで別のスキルが備わってる可能性もある。


 何にせよ――取り敢えず一発食らってみれば分かる話か。


「鉄血」

「――えやぁっ!!」


 硬化した顔面に打ち込まれる拳。爆発が視界を覆う。

 体幹部をしならせ衝撃をいなし、立ち位置を保つ。


「うらあぁっ!!」


 高速ラッシュ。その数だけ重なる爆発。

 耳元での轟音が地味にうざったいな。鼓膜も硬化されているから破けたりはしないが、煩いもんは煩い。


「はははははっ! どうしたどうした、手も足も出せねぇかぁっ!?」


 雑なフォームの割、連打の回転が不自然に速い。肩を強化するスキルと推定。

 爆発の発生は拳の接触から概ねコンマ二秒後にも拘らず、先に当たった殴打自体の威力は皆無。


「成程」


 大体把握した。四肢より生ずる運動エネルギーを爆発に変換するってところか。

 体格の良さも併せて中々の威力だが、スキルに頼り過ぎだ。拳に腰を乗せていない分、一発一発が軽い。


〔藤堂選手、怒涛の乱撃ぃぃぃぃッ! 息もつかせぬ猛攻に、スカル・スカー選手は成す術なし! このまま決まってしまうのかぁ!?〕

〔……いや……あのラッシュを受け続けて、一歩も動いていない……?〕


 これでは『鉄血』を破るどころか、マスクにもヒビひとつ入らないし、装備が損耗することも無い。

 正味、鬱陶しいだけ。


 なので、両腕を掴んで止めた。


「なッ──!?」


 思いもよらぬ反撃に面食らったのか、硬直する熊ゴリラ。

 悪手だよ馬鹿が。


「豪血」


 手首の骨を握り潰す。

 間髪容れず鳩尾に膝を突き刺し悶絶させ、返す刀で回し蹴り。


 石畳の床と平行の軌跡を描き、熊ゴリラは遥か後方の壁面まで吹き飛び――レンガの中に、めり込んだ。





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