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入場ゲートの大型シャッターが、演出効果の一環か派手な音と共に複雑な形状で開く。
併せ、気圧差によって会場内へと吹き込むドライアイスの白煙。
――
身入りを得るべく、こうした細かな部分にも手を加えるのは流石のプロ意識。
「もう入って良いのか」
合図と教えられた青ランプが点灯する。
そう言えば、出来れば何かパフォーマンスをと頼まれたが……面倒臭い。普通に入ろ。
「あ。樹鉄刀、家に忘れた」
直径五十メートルほどのフィールドと、それを取り囲む十万人近く収容可能な観客席。
立体映像で作られた、中央へと伸びる花道を進む。
〔さあ、いよいよ一回戦の大詰めとなる第四試合! 西ゲートより白煙を伴い颯爽と現れたのは、僅か十七秒で予選突破を果たした今大会のダークホース!〕
予選の時と同じ実況者が、声高く俺を紹介する。
これ自分で要望とか出せるそうだけど、かったるいのでお任せにしといた。
〔Hブロック代表! エントリーネーム、スカル・スカー! 経歴不明、本名不明! その実力以外、全て暗闇に包まれたアンノウンが、禍々しい装備を纏い、ゆっくりと歩を進める!〕
つむぎちゃん達の居る特別席は……ああ、あった。
使い続けた『豪血』の恩恵により根本強化された視力を駆使し、つむぎちゃん達を見付け、軽く手を振っておく。
……なんか皆さん、物凄く怪訝そうに首を傾げてるんだが。どったのセンセー方。
〔ドライアイスの所為、でしょうか? 私には彼の姿が霞んで見えますね〕
〔あの装備によるものかと。恐らく都市伝説系クリーチャーの素材です。ドロップ率が著しく低いため、仕立てる際は多額の金銭を積むか自ら素材を持ち込むかの二択ですが……もし後者なら、既に二十番台階層や三十番台階層へと足を運んでいることになります〕
〔そんな、まさか!?〕
見ただけで素材が分かるとか、すげぇな解説の人。
そして成程。俺を上手く視認出来なくて不思議がってたのか。
別に深い意味があってフード被ってるワケでもないし、外した方が良いかね。
そんな思惟を交えつつ、通路と同じく立体映像の光柱で足を止める。
〔静かに初期位置へと立つ謎多き刺客――続いて、東ゲート開門!〕
実況の宣言と同時、対面側のシャッターが爆ぜる。
観客達は騒然となるが、スタッフに狼狽えた様子は見られない。
事故ではなさそうだ。演出か。
ま、あっちは優勝候補らしいし、俺より派手に仕掛けるのも当然っちゃ当然だろう。
〔――会場の皆様は、彼の伝説を御存じか!?〕
嘶く竜が引き裂かれる立体映像に合わせ、亡骸を乗り越えるように歩み出た大男。
〔打ち立てた逸話は数知れず! 今なお、その凶暴性は留まるところを知らず! 生きたクリーチャーの肉すら食らう破壊の権化!〕
二メートルを回るだろう筋骨隆々の体躯、ゴリラや熊を彷彿とさせる面相。
灰色に染めたザンバラ髪、古式ゆかしい特攻服を思わせる装備。
背一面には昇り龍の刺繍まである。すんごい時代錯誤。
〔日本最悪の無法地帯で最強と呼ばれた男! 嘗て誰もが彼を畏れ、こう呼んだ! 『越後の龍王』と!〕
「…………ん?」
確かにネットでも龍王様とかドラゴン様とか呼ばれておりましたが。
けど、ちょい待ち。なんか凄まじく聞き覚えのある話なんですが。
マスクの下で口元を引き攣らせる俺を余所、五メートルほど離れた初期位置に着く熊ゴリラ。
丸太同然の腕を組み、仁王立ち決め込んだ後、実況さんが高らかに奴の名を叫んだ。
「今大会、否! SRC始まって以来の傑物の一人と名高き、未来のトップ
………………………………。
……………………。
…………。
どういうことなの……。
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