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 ――長く険しい苦難の末、リゼは見事に試練を乗り越えた。


 試練と言うか、試験だけども。


「ぶい」


 空間投影ディスプレイを突き出し、輝かしい数字の羅列を見せ付けるリゼ。

 まあ輝かしいは大袈裟にしても、全科目合格点。

 ドヤ顔は多少腹立つが、喜びに水を差すのも悪い。大目に見よう。


「良かったな。こっちも前みたいな苦労を背負わずに済んでホッとしてる」


 何せ試験結果を弄り回すとなると、試験当日まで遡って差し替えねばならない。

 科目によっては一週間以上も過去の話だ。鮮度が落ち始めていて、あんまり『ウルドの愛人』を使うと地味にがダルい。


 数分前、数時間前の出来事なら可能性次第で死者の蘇生さえ容易いと言うのに、数日前のこととなれば紙切れ一枚の記述内容をズラすだけでも難儀する。

 本当に妙なスキルだ。






「にしても、どう過ごしたもんか。冬休み」


 近頃、めっきり冷え込むようになった外の空気。つむぎちゃんから貰ったマフラーを巻き、リゼと二人アーケード街を歩く。

 こんな薄地だってのに毛糸並みに温かく、肌触りも極上ときた。大したもんだ。


「甲府迷宮の攻略でもすれば?」

「それも考えたが、今更感あるんだよなァ」


 装備が充実した上『双血』の能力も増え、継戦能力を筆頭に俺自身の性能が大きく跳ねたことで難度五ダンジョンのソロ攻略すら物足りなくなりつつある現状。

 この期に及んで難度四ダンジョンを楽しめるとは思えない。しかもあそこ、二十番台階層が無駄に広くて時間ばかり食うし。


 俺が求めるものは、いつだって激辛スパイシーな刺激。舌ちぎれそうなくらいの。

 どうせ行くなら、ソロ攻略が認められている最高値の難度六を選びたいところ。


 だが。


「……? よぉ、関東って四十くらいダンジョンあるのに難度六だけなくね?」

「え、嘘」


 腕輪型端末で全国のダンジョン分布図を開いたところ発覚した、衝撃の新事実。

 ダンジョンは難度四から六が、割合的に最も多いのに。


「一番手近なとこは……京都か」


 少し遠い。まあ、ちょうど冬休みだし、二度目の遠征として足を運ぶのも悪くないか。

 金なら品川大聖堂を攻略した際、稼いだのがあるし。思い出したら蕁麻疹出そう。

 精神衛生に障るので、最近はもう金のこと自体なるべく考えないようにしてる。


「行くかなぁ。しかしなぁ」


 やはり一人で遠征というのは些か味気ない。

 夏の軍艦島だって、リゼが居なけりゃ間違い無く楽しさ半減以下だったろうし。






「む」


 試験明けでやることも無いので、結局フラフラと探索者支援協会甲府支部まで来てしまった俺達。

 販売フロアで最新ハイエンドモデルの広告を見て暇を潰していると、視界の端に掠めた派手な映像。


「むむ」


 向き直った先には、宣伝用の空間投影ディスプレイ。

 繰り返し流れるPVが、折良く頭から始まるところであった。


「第九回SRC……予選最終試合、出場選手受付中……」





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