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「うぅ……うー、ううう……」


 五日ぶりに甲府へ戻り、土産片手にリゼを訪ねると、死にかけてた。


「おい大丈夫か」

「頭痛い……吐きそう……」






 リゼをベッドに横たわらせ、額に冷却シートを貼る。

 俗に言う知恵熱。まさか二十歳過ぎても出す奴が居るとは。どんだけ勉強嫌いなんだよ。


 画面表示されたままの空間投影ディスプレイを見て進捗具合を確かめたところ、そこそこ出題範囲を押さえていた。

 よく頑張ったな、偉いぞ。試験本番まで、あと一週間以上あるけどな。

 現時点で、この有様。当日まで保つのか不安でしょうがねぇ。


「つかれた……もうやだ……」

「今日のとこは休んどけ。軽く何か作ってやる、食って寝ろ」


 基本的に他人への関心や情が薄い俺とて、病人に鞭打つほど鬼ではない。

 勉強嫌いな相方の努力に対する労いも篭め、キッチンに向かうべく腰を上げる。

 裾を掴まれた。


「なんだよ。ピーマンは混ぜないから安心しろ」


 掴む力が強くなる。

 ピーマンを警戒してるワケではないらしい。


「……五日も、どこ行ってたの……」

「品川」


 皆まで告げずとも俺の行き先に思い至ったのか、ああ、と頷くリゼ。


「日帰りのつもりが、つい熱入っちまって。結局、攻略して来た」

「意味分かんない……」


 装備の損耗を気にせず動き回れるのが楽しく、もうちょっと、もうちょっとと続けるうち、いつの間にやら最深部よ。

 血が磨り減ったら階段で休憩がてら、水がぶ飲みして『錬血』使えば良かったし。

 アレ、マジ便利。磨り減った血の量に関係無く回復に一律三十分かかるから階段以外で使う場合はタイミングの見極めが少々難しいものの、そこら辺は増血薬との兼ね合いな。


「つーワケで、これ品川土産」

「なにこれ」


 リゼとつむぎちゃんにと思い、過去を差し替えてドロップした大量の聖銀。

 そいつを加工し、作って貰ったブレスレットだ。

 ちなみに、つむぎちゃんにはネックレスを渡してある。マフラーの返礼に、同じく首に巻くものをってな。


「……きれい……虹色の光沢……え、これ純聖銀……?」

「慧眼恐れ入る。品川支部に居た探索者シーカーのオッサンが『シルバーマスター』つう、銀ならなんでも操れるスキルを持っててな」


 聖銀は、基本的に聖銀鉱石という形でドロップする。

 必然、抽出には面倒な冶金が必要なのだが……オッサンは触れただけで鉱石から聖銀のみを取り出し、あまつさえアクセサリーへの成形までやってのけた。

 本人曰く、聖銀加工だけで十分稼げるから、もう何年もダンジョンアタックはやってないらしい。


「言うだけあって熟練の手並みだったぜ。ああいうタイプのベテランも居るのな」

「無垢の聖銀……買えば幾らになるのよ、この量……」


 知らね。純聖銀て純金より安かったっけ? 高かったっけ?

 武器とかに使う際は、総聖銀製だと値が張り過ぎるから他の金属混ぜ込んだりが基本なんだよな、確か。

 一番手軽な表面コーティングでも七桁かかるとかなんとか。


「……アンタなら確定ドロップ出来るにしたって……結構な数のクリーチャーを倒す必要があったと思うんだけど……」

「楽勝」


 聖銀鉱石をドロップするのは『シルバーカーバンクル』や『ホーリーレプラコーン』など臆病で発見し辛い連中ばかりだったが、研ぎ澄まされた五感で探し出した。

 月彦様からは逃げられないのだ。


「ま、細かいこたぁいいんだよ。それとも、気に入らねぇか?」

「…………ううん。ありがと……」


 おや。弱ってる所為か、珍しく素直。


 ともあれ、聖銀は身に付けると頭が冴えるなんて風説もある。

 嘘か本当か分からんけど、試験に向けた御守りくらいにはなるだろ。

 ファイトだリゼ。





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