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近頃の溜まり場である駅近くのダーツバー。
ふらりと訪れた際、小洒落た内装と秘密基地的な雰囲気が気に入り、以来贔屓としている。
出来ればリゼにも暫く秘密にしたかったのだが、三日でバレた。
ちなみに俺もリゼも酒は飲まないし、なんならダーツもやらない。
軽食とソフトドリンクを摘みながら駄弁るためだけに、足繁く通ってる。
「なあリゼ、ヤろうぜ? いいだろぉ?」
丁寧に磨かれたカウンターに伏し、隣でドクペを飲むリゼの髪を撫でる。
サラッサラだなオイ。
「行こーぜ青木ヶ原。アタックかけよーぜぇ」
「嫌よ」
おっとリゼさん、にべもなく断ってくれちゃいますね。
指が全く絡まない髪と同様、交渉の取っ掛かりも掴ませやしねぇ。
青木ヶ原天獄。
全七十階層、攻略難度八。
日本唯一の難度十ダンジョンこと那須殺生石異界と、国内八ヶ所の難度九ダンジョンに次ぐ――否。
ある意味では、この国で五指に連なる難関。
――世界に散らばる九百九十九のうち、未だ最深部までの攻略が達成されていない未踏破ダンジョンは四十四ヶ所。
内訳は難度十が九つ、難度九が三十、あとの五つが難度八。
そして青木ヶ原天獄は、その五つのひとつ。
事象革命より四十年。未だ誰一人攻略どころか最深部への到達すら成し遂げられていない難度十は兎も角、それに準ずる難度九の三分の二が既に拓かれている中、一線級の
難度六の軍艦島をリゼと二人で、難度五の函館迷宮をソロで制した今、最早、難度四の甲府迷宮では全く物足りない。
挑むならば、より高く。屠るならば、より強く。難度の上でも立地に於いても、次なる目標と定めるにあたり、青木ヶ原天獄は打ってつけだった。
「なーあー行こうぜー。青木ヶ原が俺を呼んでるんだよー」
おいでよー、おいでよー、みたいな感じで。
「一人で行けば」
あら辛辣。
原則、難度七以上のダンジョンはパーティ組んでなきゃアタックさせてくれないことくらい知ってるくせに。
「冷たいこと言うなよ相棒。現地で寄せ集めた即席メンバーだけで進めるほど深層は甘かねぇ。お前みたいな気心知れた奴と一緒じゃなきゃよぉ」
「お断り。どっちにしろ二人きりで深層とか自殺行為」
リゼの言い分も、理解は能う。
一般的に深層と呼び括られる五十番台階層以降は、直前の四十番台階層と比べても隔絶した差が存在する完全な魔境だ。
八尺様を思い出す。
あのレベル、或いはそれ以上のクリーチャーが、ゴロゴロと。
やべぇ超行きてぇ。
「そもそも、大学あるのに深層攻略とか無理に決まってるでしょ。潜るだけで何日かかると思ってるの」
「何も今日明日なんて言ってねぇだろ。冬休み入ったらだよ」
そりゃ本音を吐けば今すぐにでも向かいたいが、タイミング的に厳し過ぎる。
「再来週から試験だもんなぁ」
「試験のことは言わないで」
剣呑な眼光で睨まれてしまった。
……お前、今回こそ、ちゃんと勉強しろよな。
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