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 ――つむぎちゃんの『アラクネ』制御訓練開始から、早くも二ヶ月余りが過ぎた。


 本人の精力的な頑張りもあって経過は順調。意思に反した暴走や誤発動は殆ど起こらなくなり、更には手足の一部のみを蜘蛛化させたり、人間形態で指先から糸を紡ぐなど、細かな扱いも上達した。

 九割方、カリキュラムは片付いたと言っていい。


 正味そこまで念を入れる必要があるのかとも思ったが、十八歳未満未成年がスキルを習得してしまった場合、規定年齢に達するまで探索者支援協会の各種保証を受けられない分、色々と面倒らしい。

 況してや、つむぎちゃんの場合は極めて攻撃性の高い特定危険スキル。義務教育中であろうとも、状況次第では学校側に受け入れ拒否の権利さえ発生するとか。


 進学や就職の際、スロット持ちは習得スキルの詳細及び習熟具合の情報開示を要求されることも多い。

 ダンジョン攻略に於いては必須の戦闘系スキルも、一般企業に勤める上では無用の長物。職種によっては内容に関わらず、スキルを習得しているだけで門前払いを受けるケースもあると聞く。


 とどのつまり、将来的に探索者シーカーとなるにせよならないにせよ、練度の向上は不可欠。


 そして――リゼのスパルタ気味な指導の甲斐あって、つい先日つむぎちゃんの復学は恙無く受理された。


 年末には退院。年明けからは名実共に現役中学生。

 今は長い休学で遅れた分を取り戻そうと、一生懸命に勉強の日々。


 尚、制御訓練で役立てなかった分、暇を見付けてはVR通信で教鞭を執ってみたが……あの子、かなり飲み込みが早い。

 小学生時代は入退院を繰り返し、中学に至っては籍こそ置いていたものの一日も通えていないそうだが、幾つかの教科は既に追い付きつつある。


 あと、目に見えて明るくなったと思う。

 先日など、均一に糸を紡ぐ練習の一環で編んだというマフラーを貰った。

 蜘蛛の姿こそ嫌えど『アラクネ』自体に対する拒絶は、順調に薄れている様子。


 …………。

 しかし。こうやってこの一件が一段落し始めた現状、反比例するように鎌首をもたげる別の問題が。


「高難度ダンジョン、行きてぇ……」


 つむぎちゃん優先で抑えてきたけれど、流石にそろそろ限界。

 元より堅強とは言い難い忍耐が、いい加減に底を尽きそうだ。





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