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「アンタ何してんの?」


 石造りの通路に響く、そんな問い掛け。


 振り返れば、怪訝そうなリゼの赤い眼差し。

 その後ろには、疲労の色を覗かせたつむぎちゃんの姿。


 ――容姿が、元に戻っている。


「上手く片付いたみたいだな」

「取り敢えずは、ね。細かい制御は全然だし、発動にも解除にも、まだ三分ずつくらいかかるけど」


 つむぎちゃんは探索者シーカーじゃないんだ。意識的なオンオフさえ出来れば、ひとまず落着だろ。


「良かったな。あと、悪かったな。あんまり役に立てなくてよ」

「い、いえっ……その……嬉しかったです、から」


 この歳で男を立てる台詞が出せるとは、魔性の素質ありだな。末恐ろしい。


 荒療治が効いたのか、翳りの落ちた面差し。

 遠慮がちな、はにかむような笑顔。

 こういう同級生がクラスに居たら、それだけで学校生活が五割増しくらい華やかだったに違いない。

 喜べ復学先の男子生徒達。


「お腹空いたわ。焼肉食べたい」


 いっそコイツに、つむぎちゃんの爪の垢を煎じて飲ませたい。

 だが今回はマジ大手柄。流石リゼ、やれば出来る子。

 飯は奢ろう。良さげな店、探しとくぜ。


「で? 話戻すけど、アンタは何やってたの?」

「何と聞かれても説明に困るんだがな」


 いきなり土下座で弟子入りを頼んできた少年に、些かの手解きを。

 まあ少年とは言っても、三歳しか離れてねーけど。






「じゃあな。中々に筋は良かったぜ」

「オス! 今日は大変勉強になりました! 機会がありましたら、またいつか御指南願います!」


 割と硬派な体育会系だった少年にロビーで別れを告げ、品川支部を後にする。

 外は陽も殆ど沈んだ黄昏時。思ったより長い時間、ダンジョン内で過ごしていたらしい。


「疲れてないか?」

「あ、えと、大丈夫です……自分でも、びっくりするくらい……」


 そう言って、片足立ちで軽く跳ねるつむぎちゃん。


 この夏まで病床に臥していたとは信じ難い壮健具合。

 異形化系スキルってのは凄いもんだな。


 と、感心する只中。可愛らしい腹の虫が。


「あう……」


 顔を真っ赤に俯く、白髪青眼の少女。

 蜘蛛は食欲旺盛と聞くし、何時間もスキルを使い続けたのだ。そりゃ腹だって減る。


 しかし、こんな姿も絵になるあたり、器量が良いってのは全く以て得だ。


「ミノ、タン、ハラミ、ロース、カルビ……」


 その一方で、物憂げに夕陽を眺める黒髪赤眼の女。

 コイツもコイツで絵にはなるんだよな。頭の中身は情緒と程遠いくせに。


「……なんか腹、減っちまったわ。親御さんと病院には連絡入れとくから、帰る前に一緒に飯でもどうだ?」

「焼肉」


 分かったから、お前は少し静かにしてろ。





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