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広間を追い出されてしまった。解せぬ。
……いや、まあリゼの言いたいことも分かる。
化け蜘蛛となった姿など人に見られたい筈もない。異性相手なら尚更。
事実、此度の件で甘木くんの報を受けた俺が最初に病室まで乗り込んだ時は、まさしく半狂乱で「見ないで」と繰り返していた。
「人が虫に。カフカに似たような話あったな」
尤もアレは家族にすら邪険な扱いを受けた挙句、悲惨な末期を遂げたと記憶してるが。
「……ん? そういや、あの時は全身が蜘蛛だったのに、どうやって喋ってたんだ?」
うーむ気になる。気になって夜中に十時間しか眠れん。
と言うか、デリカシー云々の観点から流石に面と向かって頼めやしないが、叶うならば是非とももう一回つむぎちゃんの完全蜘蛛形態を拝ませて頂きたい。
メタリックな甲殻を積層したジョロウグモって感じで、超カッコ良かったんだよな。
階層の突き当たりに位置する広間から唯一伸びる通路。
ひとつ角を隔てた先にて、樹鉄刀を弄びつつ佇む。
「……リゼの奴、つむぎちゃんに無茶させてねぇだろうな」
十秒に一回くらい、足元揺れるほどの音と衝撃が伝わってくるんですけど。
「ン」
何やら此方に近付く気配。
一瞬ゴブリンかと思うも、足音が靴のそれだ。
「な、なあ、よそうぜ……なんかヤバそうな感じするって……」
「ビビってんじゃねーよ! 上等上等、いい加減ゴブリンばっか相手にするのは飽き飽きしてたとこだ!」
よく響く声を拾うに、若い男が二人。
会話の内容から、
さてどうするか。
「通すワケには行かないよな」
喉覆いを撫で、顔の左右に分かれていたマスクを装着。
次いでフードを被る。クネクネのドロップ品で作られた、被った者に対する周囲の認識を僅かに狂わせる代物。
準備万端で待ち構える俺。程なく現れる高校生くらいの少年達。
此方を見とめ、ギョッとたじろぎ――
「――う、うおおおおおおっ!」
気の強そうな方が、剣を手に突撃してきた。
僅かどころじゃなさそうだな、認識の狂い。
にしても見敵必殺。向こうからすれば得体の知れんだろう輩を相手に中々の思い切り。
将来が楽しみだ。
「ハハッ」
逆手に持った樹鉄刀の柄頭で太刀筋を逸らし、いかにも安物の皮鎧に覆われた胸を掌底で軽く押す。
「け、ケンちゃんッ!」
数歩たたらを踏み、尻餅をつく少年。
気の弱そうな相方が声を上げる中、当の本人は唖然と俺を見上げてる。
「……悪い悪い。からかうだけのつもりだったんだ」
フードを取ると、此方が人間だと気付いたらしく目に見えて慌て始める少年達。
苦笑混じり、親指で背後を指した。
「この先はツレが取り込み中でな。悪いが出直してくれ」
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