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初見のダンジョンと言っても、五階層までは他の凡そと同じく迷宮エリア。
時折鉢合わせるゴブリンを蹴散らしつつ、予めマップで見付けておいた手頃なスペースを目指す。
「着いた。ここだな」
品川大聖堂三階層の端。二十メートル四方ほどの何も無い広間。完全な突き当たりに位置し、階段と階段を繋ぐルートからも大きく外れている。
そうそう人が来ることも無いだろう。条件としては申し分無い。
「薬が切れるまで……あと少しか。待とう」
「……はい」
面差しに影を落とし、ぎこちなく頷くつむぎちゃん。
心配無用だ。なんとかなるって。
容姿、能力、思想、人種、血統、家庭環境、経済状況、エトセトラエトセトラ。
身も蓋も無く述べてしまえば、世間とは枠組みを外れた存在に優しくない。
みんな違ってみんないい。そんな綺麗事が通用するのは、結局のところ幼稚園までだ。
異物の排斥も弱者の淘汰も、原始時代から脈々と引き継がれた、人間の根源的な習性。
断言するが、虐めも差別も迫害も、社会からは絶対に無くならない。
さて。そこら辺を念頭に置いた上で、つむぎちゃんが今のまま復学したとして首尾良く学校に馴染めるか、レッツ・シンキング。
結論は殆どノータイムで出た。
――難しいだろう。ほぼ不可能に近いレベルで。
「服、きつくないか?」
「……だ……大丈夫、です……」
再び『アラクネ』の影響下に置かれ、俺より視点の高くなった顔を俯かせる彼女を見遣りつつ、そう思案する。
第一、下半身が蜘蛛では日常生活ひとつ取っても不便極まりない。
そういう意味でもスキルの掌握は絶対だ。
「んじゃ、どっから取り掛かるかね」
支援協会のデータベースによれば、過去様々な経緯で他人のスキルを継承した者達は、前任の癖でも染み込んでいるのか、悉くがその扱いに骨を折ったらしい。
いっそのこと心霊手術でスロットを取り除いてしまえれば良かったのだけれど、つむぎちゃんの場合は魂への癒着が強く、下手に触れるだけでも危険だとか。
現に『
まあ無理なら仕方ない。
それに『アラクネ』の詳細を調べたが、年三回の脱皮による細胞活性化と美化を備えた希少なスキルだ。
肉体をアップデートする細胞活性化も、歳月と共に容姿が磨かれて行く美化も、場合によっては不老以上の人気を誇る能力。
しかも不老と違って、今のところ選択式のスキルペーパーで習得可能なものが存在しない超レア物。
十分な制御さえ適えば、あながち悪い目ばかりではないように思う。
「ところで」
ぼちぼち制御訓練を始めたくはあるのだが……その前に、ひとつ質問。
「今更聞くのもなんなんだけどよ。制御訓練って何すりゃいいんだ?」
おいリゼ。哀れなものを見るような目はやめろ。
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