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――突然だが、スロットについて少し語ろう。
事象革命以降、人種性別関係無く、およそ二千人に一人が持って生まれるようになった先天的な才覚。
スキルという千差万別の異能を注ぎ込むための器であり、地球の理を拒む異次元たるダンジョンに踏み入ることを可能とする素養。
詳細に関しては未だ不明な部分の多い存在だけれど、形質的には魂に突き刺さる杭に近いらしい。
それを心霊手術で以て抜き取り、別の人間に移し替える行為こそ、スロット移植。
が――これは、あくまで最も確率が高く、かつ安全とされる方法でしかない。
成功率や危険性を度外視すれば、スロットを元の宿主から移動させる手段は、他にも幾つか存在する。
例えば、臓器移植。
通常、スロット持ちが死ぬと、数日かけて身体から魂が剥がれた後、拠り所を失ったスロットもまた消え去る。
けれど、そうなる前に亡骸から臓器を摘出した場合、残留思念のような形で魂が滞留し、更には、そこにスロットの一部が混ざり込むケースがある。
大半はレシピエント側に臓器が移った際、その定着に伴う微細な変化にすら耐えかね、人知れず掻き消えてしまうほど弱々しい残滓。
だが。移植が完璧に近い形で成功すると、魂よりも僅かに強度の高いスロットだけ霧散を免れるという事態が、極々稀に起こる。
確率で言えば万分の一未満。ほぼ無いものと扱われる、もしもを幾つも重ねた儚い可能性。
加えて、この場合にレシピエント側が受け取るスロットの枠数は、ドナー側の総スロット枠に関わらず、ひとつのみ。
それも、通常のスロット移植とは異なり、習得していたスキルごと、だ。
…………。
とどのつまり、俺は上手く差し替え過ぎた。
ベストな過去が、ベストな未来を招くとは限らない。
可能性の示す限り、最良の状態で手術が成功した過去を選んだ結果――こんなことになってしまった。
個人情報保護だの守秘義務だのと渋る院長を締め上げ、強引に話を聞いたところ、つむぎちゃんに心臓を提供したドナーはギリシャの
七つのスロットと五つの強力なスキルを持ち、将来を有望視されていたそうだが、実力不相応な難度のダンジョンに挑み、亡くなったとか。
そのさぞ強かろう無念もまた、今回の件を招いた一因やも知れない。傍迷惑な話だ。
……つむぎちゃんに宿ったスキルの正体は、探索者支援協会に問い合わせることで判明した。
名を『アラクネ』。世にも珍しい異形化系スキルの一種。
習得者の肉体を化け蜘蛛に変異させるという、十三歳の女の子にとって、あまりに酷なチカラだった。
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