138
東京行きの電車に揺られてたら、唐突に静電気の弾けるような音が鳴り渡り、併せてリゼが近くのオッサンの腕を極めた。
いきなり何してんだオイ。
「月彦。今このゴミカスに尻触られた」
あーはいはい痴漢ね。どんなに文明が発展しようと絶滅しない悲しき種族め。
しかも相手が悪かった。無抵抗そうな女を選んだつもりなら、目玉が節穴かビー玉かドングリだったと言わざるを得ない。
「どっち側だ」
「左」
「なら左の奥歯を残らずヘシ折ろう。それで勘弁してやれ」
何せ今の御時世、警察に突き出したら一発で人生終了だ。被害者側が
尻ワンタッチでゲームオーバーは、流石に可哀想だろ。
「つーか女性専用車両行けよ」
「アンタが来れないでしょ。移動中、暇を持て余すわ」
そりゃそうだ。女性専用だし。
法的な強制力があるワケではないから厳密に言えば乗れるっちゃ乗れるけど、わざわざ居座ろうとは思わん。
……あと、どうでもいいが、この派手にバチバチ響くスパーク音みたいなのは一体なんだ。
お前の仕業だよなリゼ。極めたオッサンの腕、うっすら焦げ始めてるぞ。
「『双血』の情報が更新されてる」
顔の左側が腫れ上がったオッサンを蹴り出した後、手慰みに腕輪型端末のデータを流し見ていたリゼ。
ふと零れた呟きに視線を向けると、掌大の空間投影ディスプレイに映る『双血』の名。
「ねえ。変質したスキルの効果って、他の習得者にも反映されるんだっけ?」
「らしいな」
有名どころだと『
歌唱力に大幅なプラス補正が掛かり、歌うことで声の聞こえる範囲内に居る味方を強化するスキル。
後衛希望が大半を占める女性
引き当てた者は歌手デビューするケースも多い。
――その『
当時、世界中で千人近く存在していた同スキル習得者達が一斉に同じ変容を遂げ、暫し世間を騒がせた。
「集合無意識による共有化とか、ダンジョンがスキルをアップデートしたとか、諸説囁かれてるが……」
変質の原理すら不明だと言うのに、真相が分かる筈もない。
唯一明らかなのは、能力が増えたという結果のみ。
尚、それに伴い『
「尤も俺の『双血』はランダム式限定、今の習得者も世界中で俺だけ。何が変わるワケじゃねぇ」
まあ、個人のスロット枠が最大八つであることに加え、未だに年間で百種近くの新スキルが確認され続けている現状、ランダム式限定スキルの習得者が一人だけってシチュエーションは取り立てて珍しくもない。
例えばリゼの『呪胎告知』だって今現在持ってるのはコイツだけだし、更に『ナスカの絵描き』に至ってはコイツが初出の新種だし。
……それは俺の『ウルドの愛人』も同じか。
「スキルってのは一体、全部で幾つあるんだろうな」
「そもそも、なんなのよ。スキルだのスロットだのって」
知るか。解明出来たらノーベル賞取れるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます