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 甲府迷宮、二十階層。


 属性エレメンタル操作の媒体たる杖を演舞が如く振るい、火柱を立ち上らせるリャンメンウルフ。

 この先の古城エリアで待つ、十番台階層のクリーチャーとは壁一枚隔てた怪物達だろうとも、まともに食らえば丸焦げ必至の火力。

 本来、四人から六人のパーティで臨むべきと推奨されている相手。


「豪血」


 強化した脚力で横跳びに躱し、ついでに火柱を

 そのまま踏み込み、距離を詰めれば、ショットガンを思わせる数十発の氷弾。

 出が早い上に実際の威力やストッピングパワーも散弾に劣らず、何より術者自身が高い近接戦闘能力を有するため、実に厄介な牽制技。


「ハハッハァ!」


 よって全弾、樹鉄刀の腹で逸らし、峰で打ち落とし、刃で斬り落とす。


 先代と違い、まともな剣の性質を備えた得物。必然的に扱い方も様変わりする。

 あと何気に水銀刀より重いんだよな、コイツ。今の身体能力なら素でも差し支えなく振るえるが、帯剣時の微妙な重心のズレに合わせて全ての所作を矯正しなければならん。


 まあ、既に済ませたけど。


「シャアッ!」


 杖を両断した瞬間、ほんの半秒だけリャンメンウルフの動きが凍る。

 武器持ちのクリーチャーは大抵、得物が壊れると目に見えて動揺する。

 いざとなれば平気で使い潰すし、素手になろうと構わず戦う俺には分からん感覚だが、愛用品がオシャカになったのだ。世間一般的な価値観に照らし合わせれば、無理からぬ話と言えよう。


「つっても敵から視線切るとか、致命的だよなァ」


 最後の一歩を詰める。

 見据える先は、人間よりも太い骨を分厚い筋肉と毛皮で鎧った強靭な首。


 左から右へ樹鉄刀を薙ぐ。

 豆腐でも斬ったみたいに抵抗無く首を刎ね、剣身を濡らす赤い血は、一滴残らず


「おーおー、行儀の悪い奴だぜ」






「斬って良し、叩いて良しってのは実に良い。使い勝手が最高だ」

「そ」


 ガムを噛むリゼを伴い、古城エリアを歩く。

 と。近くの壁を擦り抜け、音も無く幽霊レイスが現れた。


「しかも、だ」


 聖銀や聖水を使うか、呪詛や属性エレメンタルを扱うか、或いはリゼのように自らが幽体とならなければ攻撃不可能なクリーチャー。

 けれども構わず斬り付ける。刃が触れた瞬間、幽霊レイスの朧な身体は千切れて霧散し、甲高い悲鳴と共に消え去った。


「ハッ! メタルコンダクターの鉄が取り憑いてる恩恵で、物理攻撃が効かねぇ相手もブった斬れると来たもんだ!」

「間違って私を斬らないでよね。何度も言ってるけど『幽体化アストラル』発動中の怪我って痛いのよ」


 誰が斬るか。フレンドリーファイアは悪い文明。


「つかこれ、お前の大鎌より高性能じゃね?」

「自動修復や物質以外の切断能力なら、臨月呪母にもあるわよ。あと、一定範囲内から手元に喚び出すリターン機能とか、使い方次第で形状や性質が変化する最適化機能とか」


 億越えのオーダーメイド品は格が違った。

 リゼの使う装備一式って、ランク的には完全に最上位だよな。

 バランス的には攻撃・機動特化で、防御力は少しだけ低いが。





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