133






 行きは飛行機で忙しなかったため、せめて帰りは落ち着いて行こうと新幹線を選択。

 新宿駅から高速バスに乗り換え、甲府に着いたのは日付も変わった頃。


「やっぱ座り通しはダルいな」


 固まってしまった首や肩を回す。

 ジムで一日中過ごしても、そうそう疲れることは無いんだが……じっとしたままってのが性に合わん証拠か。


 早く帰って寝るとしよう。住まいが駅やバス停の近くってのは、こういう時に便利だ。






 なんか部屋に明かりが点いてる。


「お帰り」


 割と頻繁に天日干ししてる布団とテーブル、映画鑑賞用の空間投影ディスプレイ。

 それくらいしか家具の無い部屋で、畳んだ布団を座布団代わりに寛ぐリゼの姿。


「何故居る」

「今日帰るってメッセ送って来たでしょ」


 好みと合わず放り出していたグラビア誌を読みながらの、ぞんざいな返答。

 質問の答えになってるような、なってないような。


「鍵はどうした」

「アンタ鍵かけてなかったわよ」


 マジか。となるとリゼは俺の不在中、留守番をしててくれたワケか。

 尤も見ての通り、盗られるほどの物なんか無いけどな。


「あとこれ。部屋の隅に落ちてた。百万円」

「おー、ここに忘れてたのか」






「で? 無事に注文は請けて貰えたの?」


 時間も時間ゆえ帰る気が無いのか、勝手に布団を敷いて横になるリゼ。

 泊まって行くのは構わんが、それ使われると俺の寝床が無くなるんですけど。


「ああ、コイツだ。樹鉄刀、銘は蓬莱」

「…………精霊信仰が根付いた部族の使う祭具か何か?」

「だよな」


 怪訝そうに首を傾げ、俺の初見時と全く同じ文言を並べるリゼ。

 どう見ても、そんな感じの第一印象だよな。果心の奴、さも俺が悪いみたいにキレやがって。


 半日前に向けられた理不尽な怒りを振り返りつつ、樹鉄刀を抜剣形態に移行する。

 パキパキと音を立てて伸びる、鋼鉄を憑依させた樹木の剣身。

 瞬く間、剣と呼べるだけのフォルムを得た得物に、リゼは目を瞬かせていた。


「週末コイツの試し斬りに行く。着いて来るか?」


 暫し間を挟んだ後、返される首肯。

 付き合いが良くて結構。


「ついでだ。他にも面白いモン見せてやるよ」

「……?」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る