132






「拙は職人として未熟も大概な若輩さ。故にこそ、より強い子を産んであげられるよう常に研鑽を怠らない」


 一年前に産んだ時は技術と発想の粋を集めた最高傑作だった水銀刀を上回る着想も、今なら百近く孕んでる。

 そう続けた果心は、俺の握る新たな得物、樹鉄刀を指差した。


「キミに提供頂いたメタルコンダクターの蒐鉄は、物質でありながらも存在としては幽体に近い。そこで拙は蒐鉄をオテサーネクの芯材に、木と金属の性質を併せ持つ『樹鉄』を造り上げたのさ」


 物に物を憑依させて各性質の両立を図るって……んな芸当、聞いたこともねぇぞ。

 事象革命以降、あらゆる分野が急速な発展を続けている現代。早過ぎる成長に情報管理が追い付かず、一個人のみが固有の知識や技術を抱えてるケースも多いと言われてるが、その中のひとつってワケか。


「金剋木。五行思想に於いて金性は木性に勝る。特性を保持したままの憑依は塩梅が難しかったけれど、決して不可能ではなかった」


 更に言えば金生水、水生木。金気は水を呼び、水は木を育む。

 今し方の急速な成長は、そこら辺の相生関係を利用したカラクリらしい。


 尚、樹鉄が勝手に剣身を象るのは、水銀刀の形状記憶の応用だとか。


「ハッキリ言おう。幽玄を殺すほどの馬鹿力で振るい続ければ、どんなに頑強な剣だろうと必ず壊れる……なら!」

「壊れた端から新しく剣身が生える剣を造ればいい、か」

「その通り! 似たようなコンセプトの子は前にも産んだが、今回は刃の生成方法に凝ってみたのさ!」


 流石、奇剣シリーズの製作者。発想が斜め上。

 ちなみに褒め言葉だ。突飛な結論、嫌いじゃない。


「オテサーネクの芯材は、あらゆるエネルギーを吸収して貪欲に育つ。実に相性良好な組み合わせだった。こんなに思い通りの子が産まれるなんて久方振りだよ」


 曰く、斬り付けたり打ち付けたりした際にクリーチャーの生命力や活力を奪い、強化再生する云々。

 緊急時は柄頭の金具に魔石を押し当てることでも補給が出来るそうな。


「勿論だが、再生能力重視とは言え簡単に歪んだり折れたりするほどヤワな造り込みはしてない。木と金属は各々異なる意味で頑丈だ。その相乗効果、試してみるといい」


 コツコツと作業台を指先で叩く果心。

 大鎚を何万回振るおうがビクともしないだろう、鉄の塊に等しい肉厚な天板。


 斬ってみろってか。


「豪血――シャアッ!!」


 赤光奔り、膂力漲る腕で樹鉄刀を振り上げ、間髪容れず振り下ろす。


「お見事。成程、単なる力技で幽玄を殺したワケじゃなさそうだ」


 やたら薄い手応え。切っ先が床に触れるコンマ数ミリ手前で、ピタリと止める。

 遅れること数秒。天板に定規で引いたような切断面が伝い、両断。重い音を立てて作業台が左右に倒れる。


「ちなみに剣身を収める時は……おや」


 なんとなく、そうすればいいような気がして、柄の峰側を撫ぜる。

 さながら最初の逆回しで、刃毀れひとつ無い剣身は、元の形へと戻って行った。


「気に入った」


 短く告げ、樹鉄刀をボディバッグ型の圧縮鞄に放り込む。

 その入れ替わり、支援協会で貰ったばかりの六百万を取り出し、近くにあった椅子の上に落とす。


「作業台の新調費と、追加料金だ」

「どうも。有難く受け取るよ」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る