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「やあ」
支援協会での手続きが長引き、予定を少し遅れてしまった。
急ぎ足で駄菓子屋に向かえば、玄関先で俺を待ち侘びていたらしい果心の出迎え。
「済まん。待たせた」
「構わないとも、まだ日暮れ前だ。さあ来てくれ。さあさあさあ早く早く早く」
「怖いぞアンタ」
五日前よりやつれ具合の酷くなった姿で、ふらふらと俺を促す果心。
まさかコイツ、あれから一度も寝てないとか言わんだろうな。
「ふふふははははは。徹夜も十日目くらいになると、逆に寝るのが怖くなるねえ」
「死ぬぞアンタ」
鉢植えに水をやってた祖父殿に挨拶し、地下の制作室に入ると、凄まじい熱気。
さながらサウナ。何日も炉に火を入れたままだったのだろう。
換気用の空調設備は整ってるみたいだから酸欠で死ぬことは無いっぽいが……棚に並べてある薬品とか、こんな環境で保存して大丈夫なのか?
「おおぉぉよしよしよしよしよしよしよしよし。ごめんねえ一人にして、いま外に出してあげるからねえ」
神棚に置いた細長い桐箱を取り上げ頬擦りし、赤子でもあやすように喋りながら紐を解き始める果心。
敢えて言わずにおいたが、だいぶイッてるよなコイツ。
「実は、ついさっき産まれたばかりでね! 中々の難産だったんだ!」
やたら複雑な結び目を解いて解いて、慌て過ぎて絡まって、それを何度か繰り返す。
「取り分け、柄の成形に手を焼いてね! さあ御覧よ!」
漸く封が開いたと思えば、勢い余って盛大に放り投げられる蓋。
反して中身は両手で優しく包み、そっと俺へと差し出す。
…………。
ん? んん?
「拙の第九十八子『
果心が高らかに名を叫んだソレは、剣と呼ぶには、あまりに異端だった。
形状は差し渡し三十センチほどの二重螺旋。
なんとも奇妙な材質で、第一印象は剪定したばかりの蔓枝のようだと思うも、よく見れば金属的な光沢を伴わせている。
両端には、それぞれ根が固まったかの如き拳半分ほどの瘤と、角鋲に似た鋭利な金具。
注文した通りの頑強な片刃どころか、そもそも剣身すら存在しない奇天烈極まる代物。
剣と言うより、まるで。
「……精霊信仰が根付いた部族の使う祭具か何かか?」
「剣に決まってんだろ、ブチ殺されてぇのか!?」
忌憚無い感想を述べたら、滅茶苦茶キレられた。
流石に理不尽。
「抜剣もしないでイチャモン付けやがって、三下のトーシロが! つべこべ言う前に柄を強く握ってみろ!」
「はあ」
至近距離で歯を剥き出し、怒鳴り散らす果心。
こういう手合いを刺激すると面倒なため、言われた通り力を篭めてみる。
――すると。
「お? おお?」
根の塊、瘤状となった先端がパキパキと音を立て、見る見る伸びて行くではないか。
不可視の当て木でも添えているかのように真っ直ぐ育つ、金属質の細かな枝。
腕一本分の長さを得た頃合い、成長を止めて枝同士絡み合い、見事な柳刃を形作った。
「刮目しろバカめ。これが樹鉄刀――蓬莱の抜剣形態だ」
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