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 血やら何やらで汚れた手足を払いつつ、ダンジョンゲートを抜け、函館に戻る。


 現在日時は……水曜の午後三時か。

 少々はしゃぎ過ぎたな。念のため滞在予定期間の申告はギリギリまで入れといたが、本当にギリギリになってしまうとは。


 さっさとシャワー浴びて着替えて、帰還報告と取得品の売却済ませて、武器の受け取りに向かおう。

 あー眠い。完全にアドレナリン切れだな、こりゃ。






「……え?」


 血痕のこびり付いた爪を洗うのに大苦戦した後、窓口で帰還報告とアタック中の情報開示を行うと、受付さんの表情が固まった。


「あ、あの……申し訳ありませんが、此方の内容に間違いが無いか、確認願えますでしょうか……?」


 そう言って、俺の前に表示される空間投影ディスプレイ。

 箇条書きの羅列をスクロール。特に事実との差異は無い。


「虚実判定、青反応……それに、何この総合記録……失礼、致しました」


 忙しなくキーボードを叩き、暫し呆然と固まった後、一礼する受付さん。

 そして立ち上がり、俺に少々待つよう告げ、程なく札束が積まれた盆を運んで来た。


「では此方、函館迷宮の特別手当となります」


 …………。

 そう言えばあったね、そんな制度。コロっと忘れてた。

 つか三百万も出るのかよ。設定額八百万の八尺様を基準に強さを比較すれば確かに妥当だが……魔石とドロップ品の売却額も合わせたら六百万くらいになっちまうわ。


「加えて、難度五ダンジョン単独攻略に於ける世界最速記録の更新を達成しています」

「お。とうとうヒルデなんちゃらを超えましたか」

「はい。ヒルデガルド・アインホルン女史の記録を三時間近く上回っています」


 正直なところレコード云々には取り立てて興味無い。

 男は過去の栄光だの功績だのに拘らないのだ。


「つきましては後日、記念メダルの贈呈が」


 あーはいはい。二十階層、三十階層、四十階層フロアボスを単独討伐した時も、アジアレコード更新記念とやらで貰ったアレね。

 どこやったっけか。リゼのオモチャになってた気がする。


「それに伴い、支援協会本部で贈呈式が開かれるのですが……過去三件、全て辞退されていますね」


 面倒なもんで。


「今回もパスで頼みます」

「……承りました」


 どういう表情を見せればいいのか分からないとばかり、ぎこちなく苦笑する受付さん。

 ごめんなソーリー。でも、探索者シーカー関連でやりたくないことは何ひとつしたくないのよ。


 …………。

 あ、そうだ。


「代わりと言っちゃ、なんですけど……俺の習得スキルに関して、追加情報が」




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