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ようよう、そこ行くゴブリン達。暇そうだな、ちょっと遊んでけ。
サッカーしようぜ。お前ボールな。
「オラ、友達をシュートしてやったぞコラ。取ってみろや」
キーパー、ゴブリンだから取れなーい。
敢え無く二匹纏めて通路を転がり、虫の息。
貧弱貧弱ぅ。ガッツが足りてねーぞ。
「……いかん、いかんな。外界のストレスをダンジョンに持ち込み、あまつさえゴブリンで発散するとか」
まるで弱い者イジメだ。こんなの健全な
さっさと六階層まで下りよ。最早ゴブリンじゃ準備運動にもならんし。
攻撃も防御も蹴りオンリー縛りで四階層に到着すると、珍しい相手に出くわした。
「ホブゴブリンか」
成人男性の平均値を上回る身体能力と殺意こそあれ、まともな装備と戦闘系スキルを備えた者なら余程の不覚でも取らん限り、そうそう苦戦することも無いゴブリン。
その上位種。通常種より大柄で力も強い、典型的なパワータイプ。
レスラー上がりの
「よう兄弟。ひとつ力比べしようや」
雄叫びを上げて向かって来るホブゴブリンと、両腕で組み合う。
成程、大した力。こっちの軽く倍はウエイトがありそうだとは言え、歯を食い縛りながらも俺相手によく堪えやがる。こりゃ素の腕力だけだと少し時間を食うな。
しかし、ここで『豪血』に頼るのもカッコ悪い。
「そいや」
なので投げてみた。
立体動画を見て覚えた対クリーチャー合気柔術。身体能力強化増幅系のスキルを持つ者が極めれば、百倍の体重差も覆すとか。
投げの途中で手を離し、上下逆さまとなったホブゴブリンが宙を泳いでる間に五発、拳打蹴撃を叩き込む。
いずれも骨や臓器を著しく損傷させ、最後は頭から落ちたことで響く首が折れる音。
ビギナー殺しと悪名高い怪物は、断末魔の声すら上げず、魔石のみを残して消えた。
「他愛ねぇ」
普通に進んでもつまらんので、蹴りオンリーに加えて十階層到達までスキル使用禁止令を己に発した。
ちょうど二時間ばかり前のことだ。
「あーあー、もう着いちまったよ十階層」
函館迷宮の六階層からは、雪の積もる『雪原エリア』。
高緯度に位置するダンジョンの比較的浅い階層で散見される環境。絶えず足を取る新雪と体力を奪う低気温が厄介で、取り分けここのように迷宮エリアを抜けて早々の出現はビギナーから敬遠を受けやすいとか。
かく言う俺自身、ブーツのシャフトを切り落とした所為で隙間から雪が入って、実に鬱陶しかった。
「お前がフロアボスか」
俺を眼前に据えて低く唸る、背中に氷の棘を生やした白熊。
見た感じの力量的には、甲府迷宮のベヒ☆モスより多少上と思われる。
要は今更、取るに足らん相手。
と言ってもフロアボス。十階層の存在でありながら、ポテンシャルは十番台階層のクリーチャー達の大半を上回る。
過度な油断は禁物。つか熊って時点で普通の人間が素手で敵う相手じゃねぇわな。
「豪血」
動脈を流れる赤光。膂力漲る躯体。
柔らかな雪に足を埋もれさせない特殊な歩法で駆け抜け、間合いを詰め、顔面目掛けて手刀を突く。
「鉄血」
寸前で『双血』の切り替え。静脈を伝う青光、硬化する肉体。
加速の勢いを残したまま鋼鉄以上の硬度を得た指先は、分厚い筋肉と毛皮に覆われた熊の弱所たる眉間を、手首が埋まる深さまで貫いた。
「……?」
白亜を穢す赤黒い血痕。
ドサリと横たわった巨体の窪みだけ雪上に残し、消え去る熊公。
しかし俺は、既に其方になど一瞥もくれず――軍艦島での八尺様との戦い以降、初めて発動させた『双血』の違和感に、首を傾げる。
「なんだ……?」
別段『豪血』にも『鉄血』にも問題は無い。寧ろ死闘を乗り越えたからか、目に見えてキレは増してる。
違和感を覚えたのは、もっと深い部分。謂わば『双血』そのものに対して。
「
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